天体を観るための安物の双眼鏡選び
天体観測入用門双眼鏡なら価格の割には評価か高いビクセンのアルティマです。
しかし、何処のホームセンターでも売られているような双眼鏡では天体が見えないのか?
と思う方もいらっしゃるかと思います。
それに、幾ら高性能の双眼鏡でも、天体望遠鏡を二つ並べた様な大型対空双眼鏡で無い限り、木星の縞模様や土星の環を観るのは無理ですから、何万円も出したくないという方もおいででしょう。
私は視力が悪いこともあって双眼鏡には惹かれ、ホームセンターや中古ショップでしばしば安物を買ってしまいます。
メーカーも判明しない口径20mmが2つ、ビクセンの量販店向きブランド30mmが2つ、鎌倉光械の30mm、 ケンコーの量販店向きブランド50mm、メーカーが判明しない50mmズーム双眼鏡などなど、安いからつい買ってしまいます。視力が弱い人には良く見えるのはすごく魅力があります。
上写真は、Copitar 7x50 双眼鏡です
双眼鏡とは
双眼鏡は対物レンズと接眼レンズに凸系レンズを使うケプラー式望遠鏡を二つ並べたものです。
ケプラー式なので左右上下が実際の地上の風景とは逆になります。
天体望遠鏡の場合には上下左右が逆になっていても苦になりませんが、風景では特に上下が逆では使い物になりません。
そこで、地上を見る望遠鏡では対物レンズと接眼レンズの間に反射鏡を入れて光を反射させることによって上下と左右を逆にして地上の風景の向きと同じにしています。
鏡では反射のときに光が失われるので、実際にはプリズムの全反射を使っています。
この方法がポロプリズム式双眼鏡です。 この型は昔から多くあるもので、左右の接眼レンズの間隔より左右の対物レンズの間隔が広いものが一般的です。上写真の Copitar 7x50 双眼鏡がポロプリズムを使ったものです。
この型の双眼鏡は、 実際の眼の間隔より対物レンズの間隔が広いので立体感が強調される利点があります。
しかし、観劇などで使う場合には立体感が強調されすぎるので、対物レンズの間隔を接眼レンズの間隔より狭くしたものが使われます。 また、対物レンズの間隔を狭くすると小型になる利点があります。
下写真は、PENTAX 8x24 UCF タンクロー双眼鏡です。この双眼鏡は、ポロプリズムを逆に使って、対物レンズの間隔は接眼レンズの間隔より若干狭くなっています。
ポロプリズム式に対してダハプリズム式があります。
左右の対物レンズの間隔と左右の接眼レンズの間隔が同じ双眼鏡がダハプリズム式です。下写真は、Raymay 10x25 ダハプリズム双眼鏡です。
ダハプリズムはプリズムの他に鍍金した反射鏡を必要とし、工作精度も高いものが必要なので同じ性能を出すためにはポロプリズム式より高価になると言われています。
さて、安価な双眼鏡選びです。
倍率が変えられるズーム式は便利なようですが、視野が狭い上にコントラストが悪いので避けます。
ズーム式はよく晴れたときに風景を観るのに使えるぐらいで、最高倍率は20倍程度が限度です。
- 対物レンズの色を見ます。
「ルビーコート」などと言われる赤い色のレンズは失格です。
地上風景を見ても青っぽく見えてしまいます。
可能な限り、黒っぽい濃い紫色に見える対物レンズを使っているものを選びます。
これは、レンズに入射した光の損失を少なくするコーティングの色です。
レンズにコーティングがしてある双眼鏡を選びましょう。
無コーティングで双眼鏡の内部がよく見えるものがありますが、一応可です。 - 対物レンズの口径は、野外でのバードウオッチング用でしたら20mm~30mm程度で、小型の物が良いです。
天体観測や夜景観賞用では最低限50mmは欲しいです。
口径30mmと口径50mmでは見える星数に雲泥の差があります。 - 天体観測用地上風景用問わず10倍以下が最適です。
10倍を超えると視野が暗くなり、また、両手でも支えきれずに目的のものが視野の中で動き回ってしまいよく見えません。
特に天体観測では恒星が光の糸を引いて動き回ってしまい観測どころでは無くなります。多くの双眼鏡はカメラ用三脚に固定できますが、固定したら手と頭だけ動かせば何処でも見られる双眼鏡の利便性が失われますし、三脚に固定してみるなら野鳥観測用のフィールドスコープや小型天体望遠鏡の方が光学設計に無理が無いので双眼鏡よりよく見えます。 - 実視野角は6.5度以上欲しいです。
これは実際に双眼鏡を覗いたときにどの程度の範囲が見えるかを表しています。
双眼鏡のボディーの倍率と口径を表示している部分にたとえば「7.8」と表示してあります。
倍率を高くすれば見える範囲が狭くなるので、倍率の大きさと実視野の大きさは相反しています。
双眼鏡は望遠鏡と異なって数多くの恒星が織り成す美しさを観る器機だということを忘れないようにしましょう。 - 出来れば購入する前に店舗内で覗いてみましょう。
特に、安物の双眼鏡を買うときには実際に見てみることが重要です。
明るい白色の壁や空などに向けると下記のイメージ図のように見えます。
上左は目だった色収差が無い場合です。
上右は視野の端周囲が青っぽく見えます。これは色収差(色滲み)が顕著な双眼鏡です。
次に、店舗内の遠くの天井の照明にピントを合わせてみます。
上図は直管蛍光管を見たときのイメージです。
蛍光管の右側が赤色に、左側が紫色に滲んでいます。これは 色収差 です。
上図ぐらい色収差がある双眼鏡は天体観測用には買わない方がよいです。 照明を見ても色収差が出ない双眼鏡でも明るい天体を見ると色収差がはっきり判るものが多いのです。 - 店舗内の遠くの柱か壁と天井の境目など、直線がはっきり出ている部分にピントを合わせ、直線部分を双眼鏡の視野の端に入れます。
すると、下図のイメージ図のように本来直線であるもの(黄色い部分)が湾曲して見えるはずです。
視野が広い双眼鏡では視野端で像が歪むのは避けられませんが、少しでも湾曲の少ないものを選ぶようにします。 - 眼鏡をしている方は、眼鏡を掛けたままで見やすいかが重要ですが、酷い乱視でもない限り眼鏡を掛けないで双眼鏡を使った方がよく見えます。
ただし、 近視や遠視などの屈折異常が強かったり、片方の眼だけ屈折異常が強い不同視では、双眼鏡のピント調整だけではピントが合わないことがあるので注意が必要です。
特に遠方の物にピントが合わないのは致命的です。
安物の双眼鏡では、金星や木星などのように明るい天体を見ると必ずと言っていいほど顕著な色収差(色滲み)が現れますから、この点は割り切って天体を観ましょう。
この記事を書くに当たって、手許にある双眼鏡で天体を見比べたのですが、ケンコーの口径50mm双眼鏡と鎌倉光械の口径30mm双眼鏡では口径の違いだけケンコーの方が星数は多いのですが、鎌倉光械の方はすっきり見えました。
ビクセンの30mmと比べると、明らかに鎌倉光械の口径30mmの方がよく見えました。