身近な自然と科学

生物 循環系の誕生

前回は、化学合成細菌が作り出した大量の有機物を、発酵菌などの嫌気性細菌が消費尽くし、その代わりの原始地球に溢れていた有害物質を少なくし、 タンパク質の元であるアミノ酸を作り出したところまででした。
ところで、細菌類は“原核生物(分類学上はモネラ界)”と言います。
“核”というのはDNAなどがある細胞の重要な部分で、菌類(カビなど)のようにちょっと高等な生物になると、核と細胞質の間が二重の膜で分離されています。
この膜を“核膜”と言いますが、“原核生物”には核膜がありません。
核膜があるものは“真核生物”と言います。当然、私たちは真核生物に分類されます。

話を戻しまして、有機物を消費尽くした地球には、アミノ酸の溜まりがあり、原核生物が生息し、まだオゾン層が無いので強い紫外線と放射線が降り注いでいたと考えられます。
この過酷な環境が刺激となってか、混沌とした十億年以上の歳月の後、偶然(或いは神の手?)によって、核膜を持ち、 “解糖系”を逆回転させる生物が誕生しました。
即ち、他からエネルギーを得て糖を作り出す生物の誕生です。

このエネルギーとして太陽光が選ばれ、太陽光を受ける“クロロフィル”を持つ細菌が現れました。
この細菌は太陽エネルギーをクロロフィル(非活性型)で捕らえ、クロロフィルを活性型にし、 活性型クロロフィルが非活性型に戻るときに放たれるエネルギーで、硫化水素を水素と硫黄に分解し“電子”を得ます。
また、ATP合成酵素は陽子の流れを利用してモーターを回し、ADPからATPを合成します。(→ 明反応)

次に、明反応で得た電子とATPを利用して、二酸化炭素を還元(電子を与える)し、炭水化物(糖)を作り出します。 (→ 暗反応:この段階では光は必要ないので)

明反応、暗反応とか出てきますと、生物の授業を思い出し、現在の植物が生まれたように思えますが、この細菌の光合成では酸素が発生しません。
しかし、電子の供給源として硫化水素を使い、分解してくれた功があります。
硫化水素というのは、温泉地で遭遇することが多い、あの、卵が腐ったような異臭を放つ有毒物質です。

酸素を放出する光合成細菌が現れたのは、それから数億年後の28億年前と考えられています。
これも偶然か神の手か、“藍藻(らんそう)”と謂われる生物が現れました。
藍藻は、モネラ界の下等藻類です。
藍藻は高温の温泉水などにも生息しますが、最も身近に観察できるものは、 田んぼやよどんだ湖沼などにいる“アオミドロ”です。水面近くを漂っている、緑色の糸状の植物です。
(植物として分類されることもある)
もっとも、最初に現れたのは見た目も“細菌”でしょうが。

この藍藻は糖を作る時に必要な電子を、太陽エネルギーを利用して水を分解して得ます。
すると、水を構成する酸素が相棒の水素と縁を切られ、酸素は水中に放出され、 水に溶け切れないものが大気中にまで及び、結果的に大気中の酸素濃度を増加させ、糖を作るのに二酸化炭素を使ったので、二酸化炭素濃度は下がりました。

無機の有毒物質が溢れていた原始地球大気から、やっと酸素が満ち溢れている地球になったのですが、 喜んでいるのは現在の私たちで、酸素が少ない状態で生息発展してきた多くの細菌類にとっては、酸素、特に“活性酸素”は猛毒そのもので、多くの嫌気性細菌が死滅したと考えれます。

今度は、好気性細菌が謳歌する時代です。
藍藻の始祖らしいものは、オーストラリアの27億年前の地層から発見されているようですが、よくも次から次へと巧く適応生物が誕生するものですね。戯言は置いて・・・

解糖系を逆回転させて、太陽エネルギーを利用して糖を作ったように、“暗反応”を逆回転させる生物が現れました。
即ち、糖を分解して水素と二酸化炭素を放出する訳ですが、水素は大気中から取り入れた酸素と結合させて水にします。
この過程は、解糖系、クエン酸回路、電子伝達系といわれて生物の教科書に説明されています。

ここでやっと、水を分解して電子(水素)を得て、同時に酸素を放出し、電子と空気中の二酸化炭素から糖を作る機能と、 糖を分解して水と二酸化炭素を作る機能が完成して、太陽エネルギーを原動力とした循環系が出来上がったわけです。