身近な自然と科学

塩を肥料とする植物

今回は、カリウムよりナトリウムが好きな植物の話です。
普通の植物は、水の吸収と保持のために細胞内に浸透圧を作り出す必要があり、その為にカリウムを使っています。
一方、ナトリウム好きな植物は、カリウムの代用あるいは補完としてナトリウムを使っています。

身近な所にも生えているナトリウム好き植物

この種の植物には、アカザ科のものが多いようです。
アカザ科は100属1400種に及び、死海や海岸など塩分が濃い地域を好み、植物界では特異な分布を示しています。
ナトリウムから身を守る術を身につけた植物とは違い、アカザ科の植物はナトリウムを積極的に利用しています。
アカザ科アカザは、日本では何処にでも生えている雑草で、芽や若い葉は食べられ、茎を乾燥させたものは杖になります。

私たちが日常食べている野菜にもナトリウム好きなものがあります。
その順に主なものを列記しますと、 フダンソウ(アカザ科)、オカヒジキ(アカザ科)、ホウレンソウ(アカザ科)、マツバボタン(スベリヒユ科)、ハクサイ(アブラナ科)、チンゲンサイ(アブラナ科)となります。

ナトリウム好きな植物と言っても安易に塩を撒かないでください。畑は雨水が川に流れる構造になっていないので、ナトリウムが堆積してしまいます。
現に、畑の縁にアカザが芽吹いていることがあるので、このような畑ではナトリウム濃度は十分だと思われます。

肥料として積極的にナトリウムを与える作物にアカザ科の「サトウダイコン」があります。
サトウダイコンは、ヨーロッパなどの冷涼地で砂糖を作るために植えられる作物でサトウキビに次ぐ生産量があります。
日本では北海道で栽培され、硝酸ナトリウムが肥料として撒かれていますが、ヨーロッパでは、塩、硫酸ナトリウムなども肥料として使われています。

数年前、NHKの番組で、アメリカの穀倉地帯の小麦やトウモロコシ畑に塩が浮いてるのを見ました。
灌漑で畑を増やした結果の「塩害」です。
土を入れ替えるか、農地を放棄するしかないようです。

水田は塩害を防ぐ

「塩害」と聞く度に、日本の稲作技術は凄い発明だと思います。
稲は水田が無くても育つ植物ですが、水を張って育てるのは、連作障害(注1)の原因になるセンチュウ(注2)やナトリウムなどを水と一緒に流し、毎年同じ土地で作れるようにするためです。
特に昔の肥料は、ナトリウムの含有量が多い人糞な為(日本人は塩分摂取量が西洋人より多いので人糞中のナトリウムも多い)にナトリウムに弱い稲を毎年作るには水で流す必要があったのです。
日本人の祖先が 米(水稲)を主に、大麦・小麦を従にしたのは賢い選択だったと感心します。
2千年以上毎年同じ土地で高収穫を得られる主力農産物は、水稲ぐらいのものでしょう。

注1:連作障害
地力の低下や病害虫の為に、農作物によっては同じ土地では作れない。

注2:センチュウ(線虫)
袋形動物の一綱。体はほぼ紡錘状または糸状。
動植物に寄生するものがよく知られるが、水中・土中に自由生活するものが多数あり、種数は昆虫に次いで多い