身近な自然と科学

植物と動物は、ケイ素とカルシウムの使い方が違う

有機物と無機物の定義は古いかも知れませんが、植物と動物の身体の多くは有機物で出来ています。
有機物で無ければ、私たちが動植物を食べても文字通り砂を噛む思いなってしまいます。
しかし、その動植物の身体の中でも無機物はあり、しかも生命活動にとって重要な地位を占めています。
私たちの身体を支える骨、海老や蟹など甲殻類の外側の殻、バラやサボテンの棘などの硬い部分には、 ケイ素 、 カルシウム などの無機物が多く含まれています。
そして、これらの無機物は、地殻(地表から深さ20~50 キロメートルの範囲)を構成していると言ってもよいほど多量に存在します。
例えば、火成岩の組成は、 酸素  46.4%   ケイ素  28.1%   カルシウム 4.15%となっています。
生物が骨格部分や重要な部分にたくさんある元素を使うのは合理的といえます。
付け加えますと、陸上高等植物の身体を支える部分は有機物です。
植物は光合成によって単糖のグルコースを作り、そのグルコースを結合させて高分子のセルロースや多糖類のペクチン、高分子重合体のリグニンを合成しています。
グルコースは活動するためのエネルギーとして使われますが、セルロースは細胞壁、ペクチンは細胞同士を結合させ、 リグニンは木質化のために使われて植物を支えています。
という訳で、光合成が出来る植物は、動物にはエネルギーになる糖で身体を作っている贅沢者です。 そして、自分では食べるものを作ることが出来ない動物から見れば 植物は食べ物の塊です。

身体の硬い部分の成分は、動物と植物ではまったく違う

ところで、動物と植物の硬い部分(骨や棘)の成分は大きく違います。
高等動物は私たちの身体で解るようにカルシウム化合物(リンと結合)ですが、 植物の場合はケイ素化合物(ケイ酸=酸素と結合)とカルシウム化合物(酸化カルシウム=酸素と結合:石灰)に分かれます。
例をあげると、バラやカラタチの棘の部分はカルシウムが多く、 イラクサ の棘の部分はケイ酸が多くなっています。
稲の表面がザラザラしているのもケイ酸の為で、稲はケイ酸を集積して身体を硬くしています。
植物がケイ素を採るかカルシウムを採るかは、カルシウム化合物が作るアルカリ性が大嫌いかどうか、という問題もあるようですが、規則性は無いようです。

単細胞 の 原生動物(アメーバ・ゾウリムシなど)や少し進んで多細胞になった海綿は身体を外部から守るためにケイ酸を分泌するものとカルシウムを分泌するグループに分かれます。

もう少し進んだ腔腸動物のサンゴ虫はカルシウム化合物で身体を守ります。サンゴ礁ですね。
しかし、腔腸動物のクラゲはケイ酸やカルシウムの恩恵を受けずに骨無しです。

もっと進んで軟体動物のタコやイカは、全体的にはふにゃふにゃですが、身体の一部に硬い部分を持っています。この部分には石灰質(カルシウム化合物)が多くなっています。

硬骨魚類 (普通の魚)では、身体を支える骨の主成分は、私たち人間と同じように 燐酸カルシウム になっています。

ここまででお気づきになられた方も多いと思いますが、陸上植物は高等になってもカルシウムかケイ素を必要とするグループとどちらも必要としないグループに分かれますが、 動物の場合はちょっと高等になれば必ずカルシウムを必要とすることです。
この事実は、身体を硬くしたり支えたりする物(骨や殻)を作るためにだけカルシウムが必要というのではないという事を示しています。
カルシウムは周知の通り細胞内外の情報伝達や筋肉収縮などに必要な成分で、心臓をポンプとして循環系を作っている動物には骨や殻はカルシウムの貯蔵庫としての役目もある訳です。
また、動物が海で生まれ陸上に上がったと考えた場合、海中に多いカルシウムを呼吸によって作られた炭酸ガスと反応させて炭酸カルシウムとして固体化でき、 炭酸と引き離して利用するのも容易と考えれるからです。

では、ケイ素は全く要らないかというと・・・・
造骨細胞はコラーゲンやグリコサミニグリカンなどの有機骨基質を合成しますが、これらの有機骨基質にカルシウムが沈着して骨化するまでは造骨細胞のミトコンドリア (細胞のエネルギー生産の場)にカルシウムとケイ素が集積しているのです。
やがて、カルシウムが沈着して骨化すると、ケイ素は痕跡だけを残して無くなってしまいます。
ケイ素が造骨細胞に有機骨基質を作らせる働きをさせているようです。

地殻上で一番多い酸素、次に多いケイ素が生命に深く関わっているのは理解できても、酸素は活性酸素として毒物になり、 ケイ素は化合物の微粉末を吸い込むと肺ガンになるものです( 石綿・アスベスト公害)
生命というのは綱渡りのようなバランスの上に成り立っていると思うと、いっそう不可思議に思えます。