身近な自然と科学

渋柿の渋抜きの原理と渋抜きの方法

今は亡き愛犬が元気に飛び跳ねていた頃なのでずいぶん前になりますが、市の催しで富有柿の苗木を貰ってきました。
その柿木が2,3年前から花を咲かせ、実を付け出しました。
そして、今年は風雨にも耐えてようやく実りの秋を迎えることが出来たのですが、この柿の実はどこから見ても富有柿には見えません。
品種不明の柿の実の写真
色づいた柿の実
食べてみると予想通り渋みがじわじわと口中に広がりました。
接木苗木の台木から出た芽を育ててしまったのか・・・と、幹を見ても地面から50cmぐらいのところから出ている枝ばかりです。
こんな高い位置で接木する方は居ないでしょうし、私も接木の位置を上げて植えた憶えがありません。
初夏、富有柿らしい幼果がたくさん落ちましたから苗木に付いていた名札どおり富有柿と思っていたのですが、翌年から成り出したのは蜂屋柿そっくりです。
品種名の札を取り違えたのか枝変わりなのか判りませんが、どれも250gは軽く超える大きな実が30個ぐらい成りました。
そこで、勿体無いので渋柿の渋抜きに挑戦しました。

渋柿の渋抜きの原理

柿の渋抜きは、柿渋の素になっている可溶性タンニンを舌に感じない不溶性にすることと同じです。
渋抜きの方法には

  1. 柿のヘタに少量の焼酎(エタノール)を付けてビニール袋などに入れて密閉しておく
  2. 柿をビニール袋などに入れ、炭酸ガス(二酸化炭素)を注入して密閉しておく
  3. 柿を45度前後のお湯に一晩入れておく
  4. 柿をリンゴと一緒に密閉容器に入れておく
  5. 柿を米の中に入れておく
  6. 柿の皮を向いて風通しの良いところにおく

等がありますが、どの方法も渋抜きの理屈は同じです。
即ち、柿の実中のアセトアルデヒドを多くして可溶性のタンニンと結びつけて不溶性のタンニンにするものです。
アセトアルデヒドはエタノールが酸化することによってつくられる他、 植物では呼吸の過程で生成されるピルビン酸から酸素の無い状況下でアルコール発酵によってアセトアルデヒドが生成されます。

上記の渋抜き法1では、エタノールの酸化によってアセトアルデヒドを生成するのと密閉した中で酸素不足にして柿自らの呼吸によってアセトアルデヒドをつくらせています。

2の方法は、二酸化炭素で酸素を遮断して柿自らの呼吸によってアセトアルデヒドをつくらせています。
平核無(ひらたねなし)などはこの方法で渋を抜いて売られています。

3の方法は温度を上げることによって呼吸量の増大と反応を促進させてアセトアルデヒドの生成を早めています。
ストレスによっても下記にあるエチレンの生成量は増えます。

4の方法はリンゴから出るエチレンガスが柿の実の呼吸量を増やしてアセトアルデヒドの生成が多くなること利用しています。
成熟段階で呼吸量が著しく増えることをクリマクリテリック・ライズと言います。
クリマクリテリックライズする果物には、バナナやキウィ、メロン、梨などがあり、これらの果物は、早めに収穫して追熟することが出来ます。
また、エチレンガスは細胞組織の破壊を促進するので柿がやわらかくなります。

5の方法も米の中に入れることによって、エチレンの効果や酸素不足による追熟を利用しています。

6の方法は、柿の皮を剥くことによって表面に皮膜を作らせて酸素を遮断しています。
傷によってエチレンの生成量が増えるのでその効果もあるでしょう。

私はリンゴから出るエチレンを利用する方法をやってみました。
柿10個 リンゴ2個 ついでにバナナ1本をビニール袋に入れて空気を追い出すようにして密閉しました。
これを置いた部屋の室温は、20~25度でした。
柿の手触り具合は、4日目は硬かったですが、5日目には軟らかくなりました。
売るなら値下げしても売り払いたいほどです。
袋を開けてみると
リンゴとバナナが入った袋に柿の実を入れる
皮を剥いてみると、軽く握り潰せるほどに熟していました。
甘いのですが、渋みが若干残りました。
それに、ここまで熟してしまうと日持ちがしません。

干し柿の作り方

柿の実の上部、枝の部分を「T」字形に残して、そこに紐を結びつけて吊るし、雨の当たらない風通しの良い所に干すのですが、皮を剥いてからアルコールを吹き付けるか、5秒間ほど熱湯に浸けて表面を消毒するとカビが生えに難くなるそうです。
干し柿にする柿を取る時期 はヘタまで色づいた頃です。
青味が残っているときに取って干すと干し柿になったときの皮が硬くて美味しくありません。
逆に色づきすぎると、紐を掛ける枝が取れてしまったり、干し柿になったときの皮が薄くて今にも破けそうになって甘い汁が滲み出てきます。
どちらかといえば、色づき過ぎたものを干した方が蜂蜜をなめているようで美味しいです。
紐を掛ける枝が取れてしまったときには、団子やおでんに使う竹串をヘタの下に挿し、竹串に紐を掛けてください。(私は100円ショップで竹串を購入)
干し柿にするために吊り下げている柿
2週間ぐらい掛かります。
この自家製干し柿は市販品に負けないほど美味しかったです。

10月末、アルコールを使った渋抜きに挑戦しました。
ビニール袋の中に柿を入れ、2倍量の水道水で薄めた消毒用無水アルコール(エタノール)を霧吹きで柿に掛け、ビニール袋から空気を追い出すようにして袋の口を縛ります。
それを室温に放置して1週間後、渋が抜けて食べられるようになりました。
4日目ぐらいでは若干ですが渋みが残っていました。
アルコール臭はビニール袋から出して置けば直ぐに消えます。