災害時の非常食アルファー米の仕組み
煎餅と糒、アルファー米
おせんべいは現在の埼玉県にある草加宿の茶店のおせん婆さんが、売れ残った団子を潰して薄く延ばし、乾かして焼いたものが始まりだと言われています。
この伝説の真偽は判りませんが、先人たちは食物を塩漬けや乾燥させて食べ物を保存したことから自然に思いついたものでしょう。
団子をよく乾かすには薄く延ばす、更に乾燥させるため、雑菌を絶滅させるために焼く、どれも利に適っています。
煎餅以外の炊いたご飯の保存法では、ご飯をよく乾かして糒(ほしいい)にしました。現在でいうところのアルファー米です。
糒は水やお湯に漬けてふやかすと直ぐに食べられるので昔も非常食にしていました。
ところで、冷めても美味しいご飯になるという米が売られていますが、ご飯は冷めると不味くなるのが普通です。
現在は、残りご飯は冷蔵庫か冷凍庫に入れて置いて食べるときはラップをかけて電子レンジで加熱して美味しく食べますが、 電子レンジが一般的になる前には炊飯器に冷めたご飯を蒸して食べる機能が付いていたくらいです。
それほど冷えた米飯は不味いのに、同じ米から作られたお煎餅は製造後数ヶ月ぐらいは常温保存で美味しく食べられます。
この違いは何でしょう?
α澱粉とβ澱粉
お煎餅に味がついている事を除けば、水分を含んでいるか、乾燥しているかの違いです。
澱粉は水を含ませて65度以上に加熱すると、糊状になります。
この糊状になった澱粉をα澱粉(アルファー澱粉)と呼び、消化がよく、美味しくなります。
デンプンの分子はブドウ糖が結合して糸状になったもので、生のデンプン(β澱粉)は糸状になったデンプン分子が束になっています。
β澱粉に水を含ませて加熱すると、水分子の束の中に水分子が入り込んで、 デンプン分子が絡み合うようになります。
こうして、デンプンに粘りが出て糊のようになります。
ところが、このまま冷めると、糊状のデンプン(α澱粉)が生のデンプン(β澱粉)に戻り、美味しくなくなります。
ですから、澱粉が美味しい状態である
α澱粉がβ澱粉に戻る条件
β澱粉に戻りやすい条件は、温度2から3度、水分30から60%です。
逆に戻りにくい条件は、水分が10%以下か水分が非常に多いときです。
お煎餅や糒はβ澱粉がα澱粉になる前に乾燥させて水分を10%以下にしてα澱粉で止めておきます。 このため、お煎餅や糒は水分を含む(しける)まで美味しいさを保っていられます。クッキーなども同様に水分を減らしています。
餅を水に入れて保存する水餅や濡れ煎餅は水分を多くしてβ澱粉になるのを遅らせています。
炊いたご飯は、中途半端な水分量(30~60%)の状態で保存すると不味くなるということですね