ラジオ聴取時に雑音となる家屋内での静電誘導
中古ショップのジャンクコーナーにアナログのオシロスコープがあったので買ってきました。
電源スイッチを入れ、ブラウン管に輝点が映るはず・・・
ところが、つまみを弄繰り回しても反応無しです。 ジャンク買いには往々にしてこういうことがあります、だから安いのです。
半ば諦め掛けた頃、何の弾みかブラウン管上に輝点が現れ、左から右に動き出しました。オシロスコープの入力と、 オシロスコープに付属している校正用CAL(calibration)端子を接続して時間軸(水平方向)と電圧軸(垂直方向)を調整すると、幸運なことにブラウン管上に方形波が現れました。
燃えないゴミを買わずに済んでホッとしましたが、予想通り使い道がありません。
オシロスコープは無線機やオーディオアンプの調整には便利なものですが、私はそのような趣味から遠ざかっています。
オシロスコープの入力端子がBNCコネクターだったので、同じBNCコネクターが付いている広帯域レシーバーのアンテナをオシロスコープに付けてみました。
すると、予想通り、50ヘルツの正弦波が現れました。
そして、この正弦波をよく観察すると細かなギザギザがある線で描かれています。
50ヘルツの波形は言うまでも無く家屋内に張り巡らされている電灯用100ボルトの交流です(西日本は60ヘルツ)。50ヘルツの波形上のギザギザは空調機や照明器具、パソコンの電源など、インバータ部から発生している数十キロヘルツの高周波電流が電灯線に漏れているためです。
インバーターから漏れる高周波電流は正弦波では無いのでその奇数倍の高調波が含まれ、それらは電灯線をアンテナにして短波帯まで電波となって飛んでいます。 屋内で中波のラジオ(AM放送)が聞き難いのはこのためです。
電灯線から電波が出ている話をしましたが、オシロスコープに入力端に付けたアンテナで50ヘルツの電気が拾えるのは電波とは関係がありません。これは静電誘導によります。
すなわち、屋内に張り巡らされている電灯線とオシロスコープの入力端に付けたアンテナがコンデンサーを構成するためにアンテナに電灯線の電気が生じます。下図は簡単な等価回路です。
Cはコンデンサー、Rは抵抗ですが、直流に対する抵抗の他に交流に対する抵抗に相当するリアクタンスを含んでいるので、正確に書けば R+jX です。
誘起される電圧は思ったより高く、長さ15cmほどのアンテナ(金属棒)で約50mV、30cmほどのアンテナには1桁高い電圧が計測されました。
電灯線の電気が誘起されるのは金属だけでなく、人体にも誘起されます。人体に誘起される静電誘導を積極的に利用したものには手をかざす、或いは触れるだけで照明などの機器が作動するするものがあります。
このような機器は、電圧変化で電流を制御する電界効果トランジスター(FET)を検出器に使えば容易に作れます。
電灯線との静電誘導が最も問題になるのは心電図や脳波などを検出する医療用計測器です。 生体から出ている電気は数μV~10mVと微弱な上に、その周波数が電灯線に流れている交流の周波数と重なる0.1Hz~1.5kHzだからです。
人体への静電誘導を防止するには人体を金属板で囲い、この金属板をアースに接続する方法があります。
実用的には心電図や脳波を計測する部屋の壁や天井、床にアースされた金属板を貼っています。静電シールド・ルームです。
ところで、オシロスコープに波形を映し出すにはオシロスコープの入力端からエネルギーを入れなければなりません。
オシロスコープ内で入力端からの信号を増幅してブラウン管上に映しているのですが、どんなに少しでもエネルギーが無ければ増幅のしようがありません。
このエネルギーは電灯線から得ていますから電灯線に電力を流している側から見れば役に立たないものに電気を使われていることになります。 もちろん、オシロスコープに取られている電気を言っているのではありません。
送電線などでは電線間や電線と地面の間でコンデンサーを形成し、それが理想的なコンデンサーとは程遠いために送電している電気のエネルギーの一部が熱に変わって失われています。 これが、交流送電の弱点です。