自動車用バッテリー再生延命の2方法
自動車用バッテリーには、電極を鉛、電解液に希硫酸を使った「鉛蓄電池」が広く使われています。 この電池の最大の欠点は、使っている内に電気を通さない硫酸鉛の結晶が析出して電極に付着し、電極の有効面積を減らし、 その結果、蓄電容量が減ってしまうことです。
自動車用バッテリーを再生、或いは延命するには、電極に付着した硫酸鉛の結晶を剥がして電解液中に溶かせば良いわけです。
現在、巷で市販されているバッテリー再生機・延命機は大きく分けて2方法があるようです。
1つは「パルス充電器」と言われるもので、バッテリーの正負極間に高電圧・高電流を極短時間加えます。 すると、空気という絶縁物を破って雷が落ちるように、硫酸鉛の結晶が高電圧・高電流に よって破壊され、 硫酸鉛の結晶が電極から剥がれると謳っているものです。
上図では押しスイッチで高電圧を掛けていますが、スイッチとしてMOSFET、それを動かすのは発振器です。
もう1つの方法は、電界中に誘電体(正と負に分極する絶縁物)を置くと発熱するので、 電極に付着した硫酸鉛を誘電体として発熱させて破壊すると謳っているものです。
ネット上の検索で見つかる特許情報では、バッテリーに掛ける高周波電圧は1セルあたり2V(12V鉛蓄電池では12V)、 硫酸鉛の結晶がもっとも発熱する周波数は10MHz近辺だそうです。
ところで、ネット上に上がっている情報を元にパルス充電器を作ってみました。
⇒ 自動車バッテリー用パルス充電器を自作してみた
市販されているパルス充電器が今回自作した回路と同じように、コイル(インダクター)を使って高電圧を作っているかどうかの確認をしていないので、 自作したものを前提に話を進めます。
電気を流していたコイルを回路から遮断すると、 コイルに電磁エネルギーとして蓄えられていたものが瞬間的に電気エネルギーなるので高電圧が出ます。
自作したパルス 充電器やネット上にあるものはこの原理を使っていますが、電気回路に良く出てくる過度現象と言われるもので、 コイルとコンデンサーによって電気振動が起きます。
コンデンサーは繋がなくても電気回路には浮遊静電容量が付きものなので電気振動が起きます (コイルは電線を接近させて巻いているのでコイル自身が静電容量を必ず持ちます)
この電気振動は、そのエネルギーがコイルとコンデンサーの間を行ったり来たりしている間に損失のために減衰して行きます。
トランジスターなどを使って外部からエネルギーを与え続ければ電気振動が継続し、 この電気振動の周波数が低ければスピーカーを繋げば音が出ますし、 周波数が高ければ電波となります。
自作パルス充電器の場合は電気振動は継続しませんが、周波数が高いので電波となります。
自作した充電器をバッテリーに接続し、 バッテリーの正負極間の電圧をオシロスコープで測ったものが下記写真です。
縦の電圧軸の線間は5V、横の時間軸の線間は0.2マイクロ秒です。
パルス充電器からバッテリーまでのコードの長さが単線で2m近くある所為か、綺麗な波形ではありませんが、 電気振動が発生して減衰していることが判ります。
次に、この電気振動が硫酸鉛を熱破壊するのに適しているという周波数10MHzまで及んでいるか調べます。
それには10MHzが受信できる短波受信機の傍で自作した充電器を稼動させてみるのが簡単です。
USB端子に接続して使う地デジチューナーを受信機に転用したSDRで見てみます。
受信機がパルス充電器が発生する電波以外は拾わないように、 パルス充電器の外部電源にはノイズを発生しない抵抗降圧型の安定化電源を使いました。
受信機の受信範囲は8.9MHz~11.2MHz
パルス充電器を切っているとき
パルス充電器でバッテリーを充電しているとき
自作したパルス充電器でもバッテリーに10MHz付近の高周波電圧が掛かっているのは確かです。
オシロスコープの波形では高周波電圧が一時的に5Vを超えるぐらいですが、充電器からバッテリーまでのコードの長さを出来るだけ短くすれば、 もう少し高い電圧になると思います。
高周波10MHzで硫酸鉛を誘電体損で壊すという特許情報では、高電圧・高電流のパルスで破壊する方法について、 「電気機械的衝撃波による硫酸鉛微結晶の破壊除去法は電極表面が硫酸鉛でまだらに絶縁されている状況下において、 絶縁面である硫酸鉛結晶面に電界は集中せず、硫酸鉛絶縁体で覆われていない流れやすい伝導電極面に電流は集中する。 よって、電気機械的衝撃波の破壊は起き難いと考えられる。」といっています。
落雷は地上より東京スカイツリーの方がはるかに多いように落ちやすい所に落ちる訳ですから、 パルス充電法のパルスもわざわざ絶縁物が厚い部分(この場合は硫酸鉛の結晶が付着している部分)を選んで衝撃を与えるとは考えられません。
しかし、パルス充電法(インダクターを使っているもの)は効果があるようです。
私見ですが、インダクターを使ったパルス充電法では10MHz付近の高周波がバッテリーの正負電極に掛かっているので、 高周波による誘電体損での硫酸鉛の破壊もしているように思います。
上記二つの鉛蓄電池の再生・延命法が効果があるとして、これらを自作する場合は、 10MHzの高周波電流を増幅し、バッテリーに効率よく送り込むのは大変なので インダクターで発生する高周波電流も有効に使う方法を考えてのパルス充 電の方がはるかに簡単だと思います。