自動車用鉛バッテリーのサルフェーションによる劣化程度を探る方法の考察
(2019年12月22日更新)
自動車を運転する方にとって一番の心配はバッテリーが上がってエンジンが始動しないことです。自宅を出るときはエンジンが掛かり、出先でエンジンが掛からないで立ち往生という話は滅多に無いですが驚く話でもありません。
近頃はリチウムイオン充電池の高性能化かで「ジャンプスターター」と呼ばれるエンジン始動用バッテリーが容易に入手出来るので、ジャンプスターターの備えがあればタイヤのパンクよりは簡単にはなりましたが・・・
エンジン始動用に使われている鉛バッテリーの劣化原因は、走行中の振動による損傷の他に、サルフェーションと呼ばれる電極板に絶縁物質の硫酸鉛の結晶が析出して有効な電極面積が減ることにあります。有効な電極面積が減ると大きな電流を取り出せなくなるのでセルモーターが回らずにエンジンが始動しない事態に陥ります。
サルフェーション除去に効果があるというパルス充電器を自作して数年が経ち、当初は持っていなかった鉛バッテリーのチェッカーとデジタルオシロスコープを入手して弄っていると、不思議な事なのか当たり前の事なのか判りませんが、或る事に気付きました。
⇒ 自動車バッテリー用パルス充電器を自作してみた
自作のパルス充電器で自動車用鉛バッテリーを充電中のバッテリー間のパルス波形
鉛バッテリー電極間の電圧(13.2V)は点Aから点Gを繋いだ直線で表されています。電圧スケールは5V(縦)、時間スケールは200nS(横)です。波形が左と右にありますが、この二つの波形が一組で繰り返しています。
なぜ二つ一組なのか?
下図は自作のパルス充電器の回路図と鉛バッテリーの等価回路図です。
- パルス充電器の出力直前にあるダイオードD2から電池のマイナス電極の間までが完全に抵抗だけなら、先の波形図の波BCDしか現れません。
- 波形のAからBの凹んでいる部分は、ダイオードD2が持つ静電容量の影響です。ダイオードD2にコンデンサーが並列接続されていると考えると解りやすいです。この自作パルス充電器ではパルス用途では無い普通の整流用10Aを使っています。
- 波形BCDとE以降の振動減衰波形は、鉛バッテリー内のインダクタ成分(L)の影響です。
- パルス充電器と鉛バッテリー間の接続用電線が長くなると、インダクタ成分が増すために、波形BCDの後に振動減衰波が現われ、E以降の減衰波形も若干ですが大きく現われます。
劣化した鉛バッテリーのパルス充電時の波形
内部抵抗18.57mΩの鉛バッテリーと同型の内部抵抗10.10mΩの鉛バッテリの、パルス充電時のパルス波形を比べてみました。
オシロスコープのスケールは、縦軸の電圧は5V、横軸の時間は200nSです。
内部抵抗は約2倍違いますが、上のオシロスコープでとった波形図AからFまでの時間がほぼ同じです。
際立って異なるのは、電圧が低下し始めるAから再び上がって頂点C、Cから下ったDまでの時間です。この時間は、同じバッテリーでも放電してからパルス充電器で充電し始めたときも同様に長くなり、内部抵抗も増加しています。
上のパルス波形をとったバッテリーは13.8Vで24時間以上充電した後のものなので、満充電しても劣化によって充放電出来る容量が異なった結果だと思います。
12V鉛バッテリーの電極間電圧が満充電時の規定電圧13.68Vぐらいになると、鉛バッテリー内のインダクターが減るらしく、パルスBCDの尖頭値と減衰振動波形EFGの尖頭値Fがほぼ電極間電圧と同じになってオシロスコープではパルスが確認出来なくなってしまいます。今回の実験に使った鉛バッテリーでは内部抵抗が10mオームに近くになるとパルスが確認できなくなりました。電極間電圧が満充電時の規定電圧になっても内部抵抗は大きいので、まだパルスを掛けたいところです。第一、パルスが確認できないと、パルス波形の変化から鉛バッテリーの劣化を探る方法が頓挫してしまいます。
パルス充電器への供給電圧を上げればパルスが確認できるようになりますが、バッテリー電極間の電圧も上がって過充電になってしまいます。
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