身近な自然と科学

電磁石と電源プラグを抜くときに火花が出る理由

電気製品のスイッチを切らずに電源プラグをコンセントから抜いたときなどに火花が出ることがあります。
この現象は、特に扇風機やヘアードライヤーなどのモーターを使ったものに多く出ます。
また、電車のパンタグラフと架線の間で火花を見かけることがあります。
火花が顕著に現れる機器にはモーターが使われている場合が多いので、モーターに使われている電磁石で火花が出る理由説明します。

電磁石のどの部分が電気を消費するか

小学校の理科の実験で行ったように、鉄釘の様な鉄棒に絶縁被覆した銅線(例えばエナメル線)を何十回か巻いて、1.5V乾電池に繋いで電気を流せば鉄釘は電磁石になります。
電磁石
ところで、接続したまま放置して置くと、何時間か何日間後には乾電池の電気が無くなって鉄の棒に巻いたエナメル線に電気が流れなくなって電磁石では無くなります。
ここで、問題です。
乾電池の電気はなぜ無くなったのでしょうか?
電磁石が電気を消費した以外は答えは無いのですが、理想的な電磁石なら電磁石が電磁石として消費した電気は全体からすれば僅かです。

上図を電気回路図で書くと
電磁石の等価回路の図
となります。
電磁石は鉄心入りコイルLと抵抗Rが直列に接続されたものに静電容量Cが並列に接続されています。 抵抗Rはコイルを作るのに使った線材(エナメル線)の電気抵抗、静電容量Cはエナメル線を巻いたために生じたものです。
この回路で、回路図中のポイントP1,P2,P3の電圧変化をスイッチ(SW)を入れた瞬間から測ってみることにします。このような実験で活躍するのがオシロスコープです。オシロスコープは、電圧を縦軸、時間を横軸にして電圧の変化をグラフ化してくれる計測器です。
下図がオシロスコープの画面で、上のグラフがコイルLの両端の電圧変化、下のグラフが抵抗Rの両端の電圧変化です。
電磁石の両端の電圧
コイルの両端の電圧は、スイッチを入れた瞬間高くなって徐々に下がって0になります。
抵抗の両端の電圧は、0から徐々に電源電圧まで上がります。
この事から判る事は、電磁石に電源を接続してしばらくすれば、抵抗(コイルの線材の電気抵抗)だけが電力を消費するということです。電磁石に流れる電流をIとすれば、電磁石で消費される電力は、I×I×Rとなります。
ポイントは、電源を接続している間は磁石になっていますが、磁力を持っているだけではエネルギーを消費しないのです。
では、コイルの両端の電圧が上がって徐々に下がるのは何か?
電流が流れると磁力が働く磁場が出来ますが、電流が増加しているときはこの電流に逆らうように磁場が増え続け、その変化している磁場によって電気が発生します。これを自己誘導起電力と言います。
コイルの両端に電圧が発生している間は、コイルが電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄えています。蓄えられる磁気エネルギーの量はコイルのインダクターが大きいほど大きくなります。

電磁石はどんなときに電力を消費するのか

磁力の発生にエネルギーが必要無いならコイルの電気抵抗を無くせば、回り続ける永久モーターが出来そうですが、自然界はそう甘くはありません。
電磁石に鉄など磁性体を近づけた途端にエネルギーを消費するのです。電磁石に磁性体を近づけると磁気漏れが大きくなりますからそれを補うためにコイルを流れる電流が増加します。 たとえば、電磁石に鉄が付くのは磁気漏れがあるからなので、鉄を付ける仕事をさせればコイルに流れる電流が増えて電磁石の消費電力が増えます。
現実にある電磁石は鉄を付ける等の仕事をさせなくても磁気漏れがあるので磁気エネルギー補給で電力を消費しています。

電磁石の電源を切ったときに火花が出る理由

1.5V乾電池で遊ぶ手作り電磁石でも電源を切ったときに、火花を見ることがあります。
なぜ火花が出るのでしょう?
火花を出すには空気の絶縁を破れるだけの高い電圧が必要です。1.5V乾電池とエナメル線では高い電圧は出ません。
ここでも、コイルに蓄えられた磁気エネルギーが出てきます。
コイルを流れる電流が減って来ると、そのコイルに蓄えられていた磁気エネルギーはその電流を補うように電気エネルギーに変わります。
スイッチを切るのですからコイルを流れている電流は一瞬で0になり、コイルに蓄えられていた磁気エネルギーも一瞬で電気エネルギーに変わります。この電気エネルギーはスイッチが切られているので行き場が無いためにスイッチの両端で高電圧になります。このとき、スイッチは電気的接触が切られただけで電極間が近接しているために高電圧によって空気の絶縁が破れて火花放電になります。
昔からある交流モーターと機械的スイッチを使った扇風機では、うっかりスイッチを入れたまま電源プラグをコンセントから抜いて火花を見ることがあります。
電磁石の等価回路の図2
また、スイッチを切ると、電磁石のコイルに蓄えられていた磁気エネルギーが電気エネルギーに変わってコンデンサーCに蓄えられます。コンデンサーの電位が電磁石より高くなると、今度はコンデンサーに蓄えられた電気エネルギーが電磁石に流れてコイルに磁気エネルギーと蓄えられます。そして、この磁気エネルギーが電気エネルギーに変わってコンデンサーに蓄えられます。この現象が繰り返されて、エネルギーはコンデンサーとコイルの間を行ったり来たりします。
電磁石の両端の電圧をオシロスコープで観察すると、
コンデンサーとコイル間の振動を表す図
この振動が発振器の原理です。徐々に小さくなって行くのは、コンデンサーと電磁石の間を往復している間にエネルギーが失われていくからです。 コイルは磁力が漏れているのでエネルギーを失い、コンデンサーは電極間に生じる電界の一部が熱として逃げています。 その他、コイルには抵抗があるのでコイルでも熱としてエネルギーが失われています。発振器では、トランジスターなどを使って外部から電気エネルギーを供給して発振を持続させています。
この様に、電磁石の動作を観るだけでも色々な電気現象に出合います。