トランジスター式の簡単な電波発振回路による1石ワイヤレスマイクの作り方
FMラジオ(受信周波数76~90Mhz)で受信できる一石FM送信機の製作です。
一昔ぐらい前までは下の写真にあるようなトランジスターや抵抗、コンデンサーで作られたテレビやラジオが何処にでも転がっていましたが、 今は2,3個のトランジスターで作られる回路までIC化されて、廃棄されたテレビやラジオから部品を取るのも難しくなりましたね。通販や秋葉原の電気街で探す方が容易に入手できます
下写真はジャンク箱から見つけてきたものです。
左から抵抗2本、電界コンデンサー、セラミックコンデンサー、トランジスター
簡単な電子回路を幾つも作って実験したいという方には電子ブロックが良いです。
アマゾンで、電子ブロック
電子ブロックはトランジスターや抵抗などの電子部品が小さなプラスチックケースに入っているもので、その電子部品入りケースを回路図どおりに重ねていくだけでラジオになったりワイヤレスマイクになったりします。
このページ紹介する、「トランジスター式で簡単な送信機(発信機)」の回路図を下に示しました。
トランジスターの足の配置です。
E(エミッター)、C(コレクター)、B(ベース)で2SC型のトランジスターは大概この配置になっています。
コイルは直径1mmぐらいのエナメル線を直径5mmぐらいの丸棒に十回巻きつけて、 コイルの長さは1cmぐらいにしておきます。
発振周波数を決めるのは図右上にあるコイルLとコイルLと並列に接続されているコンデンサー20pF、 それと、トランジスターのコレクターとエミッターに繋がっているコンデンサーCの5pF、忘れがちですがトランジスターの出力容量です。 ラジオ(たとえば、NHK東京594kHz)が使っているMW帯の発振回路ではトランジスターの出力容量は無視してもよいですが、周波数が高くなると無視できなくなってきます。 これら全てのCの成分(リアクタンス)をCと置くと、発振周波数 f は
f=1/(2π√(L*C)) となります。
発振の始まりは何らかの切っ掛け(電源が入れられたとか)で、コイルLとコンデンサーの間に振動電流が流れ、 その一部がトランジスターのコレクターエミッター間に接続されたコンデンサー5pFとエミッターと電池のマイナス間に繋がれた抵抗100Ωによってトランジスターのベースに同相で戻されます。(正帰還)
すると、ベースに加わった振動電流はトランジスターで増幅されてコレクターからコイルLとコンデンサーの回路に供給されて振動のエネルギーになります。 すると、再びベースに正帰還されるの繰り返しで振動電流は持続されます。
ここで回路図の左から電界コンデンサーを通して音声信号を入れます。
音声信号はトランジスターのベースに加わっているので、コレクター電圧と電流が音声信号によって変化します。
すると、トランジスターの性質で出力容量が音声信号に比例して変化し、出力容量も発振周波数を決めるC成分(リアクタンス)になっているので発振周波数が音声信号によって変化します。
これはFM(周波数変調)になっているのでFMラジオで受信すれば音声が聞こえるという訳です。前述した高い周波数の発振回路では無視できないトランジスターの出力容量を変調に使っています。
ちょっと高級な回路では、コイルLと並列に可変容量ダイオード(バラクター)を入れ、可変容量ダイオードに音声電圧を掛けています。可変容量ダイオードは、両端に加える電圧によって静電容量が変化するコンデンサーです。
可変容量ダイオードを使用すれば周波数が音声によって変化する幅を自由に変えることが出来ます。 復調音声の質は期待できませんが、中心周波数600kHzにして音声によって10kHz周波数が変化する発振器も作れます
この発信機を作るときの注意ですが、トランジスターは2SC型ならあとの数値が違っても使えますが、電源は乾電池1本にしてください。
1.5Vですから接続を間違えたりしてもトランジスターが壊れることは滅多にありませんが、 電源電圧を6Vや9V、12Vと高くすると間違いなく組み立てても壊れます。
電源電圧を上げて壊れる原因は電源のプラス側とトランジスターのベースを繋いでいる抵抗 15kΩにあります。
電源電圧に対してこの抵抗が小さすぎるとベース電流が流れすぎてコレクター電流が最大定格値を超えてしまってトランジスターが焼損して壊れるのです。
電源電圧6Vなら100kΩ、12Vなら470kΩぐらい必要になると思います。電源電圧を上げても電波はあまり強くならないので安全な1.5Vが無難です。
それから、トランジスター回路は専用のベーク板に組むのが普通ですが、この程度の回路で電源が乾電池1.5Vなら何も使わずに部品同士を直接くっつけても支障ありません。空中配線です。 ただショートしないように接近している部品間には絶縁テープなどを入れてください。
希望の周波数にするにはFMラジオをつけておきながらコイルLの長さを伸ばしたり縮めたりします。上手に作れれば、10~30mぐらい電波は届きます。
コイルとコンデンサーのみで発振させる回路を自励発振回路と言います。自励発振回路は簡単ですが、周囲の温度変化や電源電圧の変化で発振する周波数が変動してしまいます。
そこで、精密な回路では、電源は電圧が一定になる安定化電源を使い、温度が上がるとインダクタンスが増加する(周波数を下げてしまう)コイルの特性を打ち消すように、 温度が上がると容量が少なくなる(周波数を上げる)コンデンサーを使って発振周波数の変動を少なくなるようにしています。
しかし、それでも周波数が変動するので、現在は中波のラジオ受信機の局部発信器ぐらいしか使われていません。
ところが、受信周波数をデジタル表示しないFM放送受信機ではコイルとコンデンサーだけで発振する送信機が使えたのです。
下の写真は株式会社ラウダの車載用FMトランシーバーXL9700です。 これは、マイクで拾った音声をトランジスター2石で増幅し、このページで紹介した発振回路のように音声信号を自励発振回路に加えて周波数変調して電波として出しています。回路基板の四角い金属で、中央が円くなっていものが発振回路のコイルです。
この電波を受けるのは、カーラジオが想定されていますが、もちろん、普通のラジオで受信できます。
旧電波法の微弱扱いで作られたようで、カーラジオの性能がよければ100mぐらい届きます。
当時のカーラジオやFM受信機は、ダイヤルを回して周波数を合わせるもので、一度合わせると、受信周波数に合わせて回路を微調整して最もよい受信状態を保つ回路が内蔵されていました。
この回路は至極簡単なもので、FM電波から音声を取り出すFM検波器の直流成分出力が、受信周波数が合っているとゼロ、ずれると、正または負の電圧になることを利用して、この電圧を受信回路の可変容量ダイオードに加えて微調整するものでした。
(可変容量ダイオードは加える電圧によって容量が変化す半導体コンデンサーです)
この御陰で、発振周波数が温度などで変化してしまう自励発振回路の送信機でも実用になったのです。
現在のカーラジオは、水晶振動子でつくられた周波数を基準にして受信周波数を固定してしまうPLL回路を使っているので、周波数が変動してしまう電波はうまく受信できません。
ここで重要な注意です。
電波法が1998年に改正され、免許を必要とせずに電波が出せる微弱電波の取り扱いが厳しくなりました。 以前は100mぐらい届いても微弱電波扱いだったのですが、現在は10mぐらい届くと違法になります。
上記回路図で作成しても、アンテナを付けたりすると違法無線局になってしまいます。
ですから実験するときには、自宅のテレビやラジオの放送受信を妨害していないか注意するだけでなく、自宅・自室の外に電波が出ていないかも確認してください。
また、電波法上の免許が必要の無い微弱送信機になるかどうかは認定機関が決めるものなので、自作の送信機やトランシーバーは出力が微弱でも持ち出さない方がよいです。
電波を遠くに飛ばすと違法になると注意しながらおかしな話ですが、参考までに・・・
もっと遠くまで届くようにするには、もうひとつトランジスターを使って簡単な高周波増幅器を作り、その入力に回路図で「アンテナへ」と書いてる端子を繋ぎます。
この高周波増幅器は「増幅」という意味もあるのですが、アンテナを大きくしたときや、アンテナの傍で人や物が動いたときの静電的な影響が発振回路に及ばないようにするという重要な働きがあります。
真空管 を使うと、簡単な発振器(真空管1本)でも、アンテナを外に出すと数キロは届くものが出来てしまいます。
第二次世界大戦の頃の軍用トランシーバーには、小さな真空管を数本使ったものがあったそうです。