電子の移動速度は遅いのに電気の速度が速い理由
2023年6月5日更新
電流は電荷が動いたものです。
電荷には、正(プラス)電荷と負(マイナス)電荷があり、物質内では正電荷と負電荷の量が同じになっていて電気的には中性になっています。
電荷は電気現象を生じさせるもので電子は素粒子ですが、負電荷の実体は電子なのでここでは同じようなものと考えてください。
乾電池に豆電球を接続すると、 乾電池の負電極から電子が出て豆電球を光らせて乾電池の正電極に流れ込みます。
この時、乾電池と豆電球を接続してる電線(銅などの金属で作られた線状の物)が地球1周するほどの長さで無ければ、私たちの感覚では豆電球は接続した瞬間に点灯します。
しかし、私たちが実験するような短い電線でも、乾電池から出た電子が瞬時に豆電球を光らせる訳ではありません。
将棋倒しように順送りに電子は動いて行きます。
解りやすい喩は、長いホースを使っての洗車や水撒きです。ホースの一端を水道の蛇口に接続して洗車や水撒きをしますが、蛇口を閉めて途中で止めても、再開したときは蛇口を開ければ長いホースでも他端から直ぐに水が出て来ます。これは、途中で止めると長いホース内は水で満たされているので再開したときは蛇口からホースに入った水に圧されて直ぐに水が出て来る訳です。
電流の場合は、電線内が電子でいっぱいなので最初から洗車や水撒きの再開と同じになります。
次は電気が伝わる速さについてです。
銅などの電気をよく通す金属内には自由に動ける電子がたくさん存在しますが、電子はマイナスの電気を帯びているので自由に動ける電子でも周囲の電子とは大きな力で反発し合っていて水分子の様に容易には動けません。
その簡単には動けない所に電池から電子を入れると、将棋倒しの様に次々に電子が押されて正極近くに存在している電子は出るしか無くなります。
こうして、電子の移動速度は遅くても電池に繋いだ瞬間に豆電球は点灯するのです。
電子が動くのは、乾電池を接続すると銅など出来た電線に電圧Eが掛かるので、負極から正極に向かって電子eにはeEという加速度が働くからです。
電圧が掛かっている限り加速度があるので、電子の速度は負極から正極までの距離が大きければどんどん速くなって行きそうですが、電気をよく通す銅でも電子の動きを邪魔する原子があるので電子は一定の速度以上には速くなりません。
これは空から降って来る雨粒に似ています。雨粒にはgという加速度が掛かり続けますが、空気抵抗によって一定の速度に落ち着きます。
電子の流れを邪魔すものが無い真空中では電圧を上げれば光速の数分の1程度の速度には比較的容易になります。
電子顕微鏡では数万ボルトから数百万ボルトで電子を加速しています
交流電気の速度
電流の向きが周期的に変化する交流電気や音声や画像などの信号を送るための電気の場合は、直流電気とは異なる様態になります。
交流など変化する電気を流した電線は、抵抗R、コイルL、コンデンサーCという電子部品で表すと下図になります。
実際の電線には抵抗やコンデンサー、コイルは付いていませんが、電線は微小な抵抗やコンデンサーやコイルの集合体と考えます。
コンデンサーCに並列接続しているGは電線の間を流れる漏れ電流です。
この理想的な電線を電源に繋ぐと、コンデンサーCとコイルLに電流が流れます。
コイル$L$に電流が流れると、電流とは逆方向に電圧$v$が発生します。電線の長さ方向への極々微小区間$Δx$で発生する電圧$Δv$は
$$ \frac{dv}{dx} = -L \frac{di}{dt} \tag{式1} $$ ただし、$L$は電線単位長(1m)あたりのインダクタンス
$ \frac{1}{LC} = C \prime ^{2}$ の関係は空気中でも成り立ちます。
蛇足になりますが、交流電気では、電子は送電線内を行ったり来たり振動しているだけで電力を直接運んでは居ません。
想像し難いですが、送電線では交流電力は2本或いは3本の送電線間の空間によって運ばれています。