身近な自然と科学

共振型アンテナとダイポールアンテナの原理と構造

効率よく電波を放出する為に、金属棒上で高周波電流を強く振動させるタイプのアンテナがあります。 喩えが良いか解りませんが、笛などの管楽器やバイオリンなどの弦楽器を思い浮かべてください。 ご存知の通り、管楽器の場合は、唇やリードといわれる振動板で作る空気の振動成分の内で、筒の長さに応じた波長の振動だけが強くなり、周りの空気を強く振動させて大きな音を出します。 弦楽器の場合も、指や弓で弦に与えた振動成分の内で弦の長さに応じた振動成分だけが強くなります。
ここで“長さに応じた”というは、一端が閉じられた筒の場合は、閉じられた端では音圧0、開いている端では音圧は最大になる。両端が固定された弦の場合は当然両端で振動がゼロになる。 という長さのことです。

これをアンテナに置き換えれば、金属棒が筒や弦に、吹いたり弾いたりして与える振動成分が 送信機から供給される高周波電流に相当し、振動を強くして周囲に強い電界と磁界を与えます。 これを共振型アンテナといいます。高周波電流と金属棒の電気的振動周波数を一致させる型です。
音波の場合に“長さに応じた”があるようにアンテナにもあります。金属棒を電気的に振動させるには両端で電流がゼロの長さにします。(高周波電流の供給は中点から行います)
sin関数の図を描くと解りますが、その長さで一番短いものは2分の1波長です。

金属棒が共振すると、その周囲に強い電界と磁界を作るので、振動を続ける為にはエネルギーがより必要になります。 この結果、アンテナの入力インピーダンスが約75オームまで下がります。これを放射抵抗と呼びます。 結果から現象を見るようですが、入力インピーダンスが下がらないと多くの電流が流れません。

金属棒の長さが波長の2分の1ものを“ダイポールアンテナ”と呼び、アンテナの基本形となっています。 電波が強く放射される或いは強く受信できる方向は、金属棒に対して90度方向です。

ダイポールアンテナは入力インピーダンスが75オームなので受信用なら容易に作れます。
例えば、80MhzのFM放送局受信用なら80Mhzの波長は300÷80=3.75[m]
この2分の1は1.875[m]、さらにこの2分の1は約93cmなので,ホームセンターで93cmの金属棒を2本と、テレビ受信用の同軸ケーブルを買ってきます。
そして、同軸ケーブルの芯線に金属棒の一端を繋ぎ、同軸ケーブルの外皮(銅網)にもう一本の金属棒の一端を繋いで2本の金属棒を一直線に並べて固定するだけです。
もちろん、中央部分では、2本の金属棒を電気的に絶縁してください。この方法で、テレビ用受信アンテナも作れます。
但し、このような接続は簡易的なものです。というのは、同軸ケーブルは、芯線と外側の銅網の間だけに高周波電流が閉じ込まれているのに、 外側の銅網を金属棒に繋いでしまうと、銅網にも高周波電流が流れてしまいアンテナの特性を乱したり、同軸ケーブルから電波の放出、または電波を受信してしまうからです。

次にダイポールアンテナから発展した八木・宇田アンテナに話を移します。これは普通に目にする地上波用のテレビ受信アンテナやFM受信アンテナです。
テレビやFM放送アンテナ、簡易無線アンテナ
構造は、ダイポールアンテナの前に2分の1波長より少し短い金属棒、後ろに少し長い金属棒を置いたもので簡単ですが、その振る舞いはかなり難解のようです。
先ず、ダイポールアンテナの周囲に発生した電界によって、その前後の金属棒も共振しますが、少し短い棒の方は位相が進み、長い棒の方は位相が遅れます。
この為に、ダイポー ルアンテナから放出された電波は、短い棒の方向に強くなります。
短い棒をある距離(波長の10分の1から4分の1程度)、置いて幾つも並べれば短い棒方向に更に強くなります。

ご自宅やご近所のテレビアンテナを見てください。
ケーブルが付いた部分から何本もの短い棒が並んでいる方向の延長線上にテレビの送信アンテナがあります。
短い棒を導波器、ケーブルが繋がっているものを放射器、その後ろの長い棒を反射器と呼びます。

八木・宇田アンテナも自作可能ですが、問題はアンテナの入力インピーダンス(放射抵抗)が極端に下がってしまうことです。
放射器から出る電界と磁界は、何本もの導波器と反射器を振動させるのでエネルギーを多く必要としますから、そのエネルギーを得る為に入力インピーダンスが低くなるのです。
入力インピーダンスを75オームに変換する為には、コイルとコンデンサーを使いますが、 アンテナの入力インピーダンスは、ホームセンターで売っているようなテスターでは直接は勿論、電流や電圧を測定し求める事も出来ませんし、 手作業では計算通りに作ることも出来ませんから、導波器や反射器の間隔、コイルとコンデンサーの値などを変化させながら一番良い所を求める事になります。 しかし、変える所が多すぎて、終わりの無い試行に陥ってしまいますから最後は妥協して適当なところでヨシとします。

今度はダイポールアンテナを中点で半分に切断するという荒業をしてみます。
波長の4分の1の長さの金属棒を同軸ケーブルの芯線に繋いで垂直に立て、同軸ケーブルの外皮(銅網)を地中に埋めてしまうのです。
この場合、地面に鏡を置いたのと同じになります。
つまり、垂直に立てた金属棒が地中にもあるように見えるのです。
勿論、地面の下からは電波が出ませんから、電波の放出や受信に寄与するのは地面から出た金属棒だけ、ダイポールアンテナの半分の能力しかありません。
入力インピーダンスも半分になります。AMラジオの放送用アンテナはこの型です。

使用周波数が高くなって消防や警察、タクシー無線などの移動局(車)でもこの型のアンテナを使っていまが、ここで問題が生じます。
アンテナは高い所にあるほど電波は遠くまで届きますから、アンテナを高い搭や車の屋根部分に置いたらアンテナ部分で同軸ケーブルの外皮の銅網を地中に埋められないことです。
同軸ケーブルの銅網部分から銅線を引っ張って地面に埋める事は出来ません。
なぜなら、使用周波数が高いので高周波電流の波長が短くなり、この銅線の長さ(数メートルから数十メートル)があれば銅線に電波が乗ってしまうのです。
銅線を地中に埋めてこの部分の電位(電圧)をゼロにしても、4分の1波長離れた部分では電圧が最大になっている可能性があります。
使用する150MHzとしますと、4分の1波長は50cmです。地面に埋めた所から50cmの部分で電圧最大、そこから2分の1波長に当たる1m置きに電圧は最大になります。
室内の電源コンセント部分にアース端子があるものがありますが、 テレビやラジオ、無線機器などのアースには同じ理由で役立ちません。この端子は感電予防の為に使うものです。

では、どうするか?大地の代わりになる物を作ります。 波長が短いので、同軸ケーブルの銅網に使用周波数の4分の1波長の金属棒を幾つか繋いで水平面に広げれば、ほぼ大地の役割を果たしてくれます。 この役目の金属棒を 地線 といいます。タクシー無線の基地局アンテナやアマチュア無線などでこの型のアンテナが使われています。

自動車に付ける場合は、自動車の車体が金属板で出来ているので、同軸ケーブルの銅網をアンテナ部分で車体に接続してしまいます。
このような方法を採らないで、アンテナの入力インピーダンスだけを何らかの方法で合わせて、 他の性能は犠牲にしてしまうアンテナもあります。携帯電話のアンテナなどはたぶんそうでしょう・・・機能よりデザインが悪いと売れませんから。