身近な自然と科学

線状アンテナの基本はアンテナ先端の電圧と電流にある

インピーダンスとは,不整合損失の求め方で無線用アンテナについて触れましたが、テレビアンテナ、衛星放送用アンテナ、ラジオ用アンテナ、コードレス電話、 無線LAN、携帯電話、PHS・・・と家の中にはたくさんのアンテナがあるのでもう少し深く考えてみたいと思います。

アンテナをその原理で分けると7種類以上になりますが、この内、私たちに身近なのは 線状アンテナ と 反射を使ったアンテナ です。
線状アンテナは、良く電気を通すアルミや銅などの金属棒に高周波電流を乗せるもので、テレビやラジオ、コードレス電話、携帯、PHSなどの多くの無線機器に使われています。
反射を使ったアンテナは、衛星放送受信用のアンテナやレーダーを思い浮かべてください。
お椀型(放物面)の金属板で電波を一点に集めるものをいいますが、この種のアンテナは 開口面アンテナ に分類されることもあります。
開口面アンテナというのは、文字通り空間に開いたアンテナで、金属板や目の細かい金属網で放物面鏡や円錐、角錐などを作り、川や海に張った網で魚を集めるように電波を一点に導きます。
一点に集めた電波を高周波電流に変えるには、衛星放送程度の低い周波数帯では線状アンテナが使われています。

今号では“線状アンテナ”について説明しますが、説明の都合上、無線アンテナの性能や振る舞いは、送信に使っても受信に使っても同じという事を憶えて置いてください。 これを アンテナの可逆定理 といいます。 ただし、衛星放送受信アンテナはお椀型のアンテナそのものは可逆定理に従いますが、受信した電波を内部の電子回路で直ぐに低い周波数に落としてアンテナ出力に出していますから、 出力端子に送信機の出力を繋げてもアンテナから電波は出ません。

さて、線状アンテナで最も簡単なものは、適当な長さに切った金属線或いは金属棒です。
ラジオやポータブルテレビの受信用アンテナがこれに当たりますが、受信用は説明しづらいので、先ほど述べた可逆定理により送信アンテナとして説明します。
例えば、送信機から“長さ50cmの金属棒”に周波数593KHz(NHK東京第1ラジオ)の高周波を送り込むとどうなるでしょうか?
金属棒(線状アンテナ)の先端を考えてみます。
先端から先は当然金属棒が無いので電流はゼロです。しかし、電圧は最大になります。
アンテナ上の電圧と電流のイメージ
イメージが湧かない方は、土砂が川を堰き止めた状況を考えてみてください。
堰き止められた地点では水は流れませんが、水嵩が増しますね。水が電流で、水嵩が電圧と同じなのです。
ですから、金属棒の先端に電圧計と電流計を付けて(付けられたら)、電圧は最大で電流はゼロということになり、 正確にはインピーダンスですが、抵抗値を測る為に[電圧÷電流]を計算しようと分母の電流値が0なので出来ません。

では、金属棒先端から50cmの所、即ち送信機に接続している点ではどうでしょう。
このような場合は便宜的に電圧電流とも高周波電流の波長に沿って正弦波的(sin関数)に変化していると考えます。
高周波電流593KHzの波長は[光速÷周波数]で505.9mとなります。
電流は棒の先端から[509.9÷4=126.47]の地点で最大に、電圧は同地点で最小になります。(フリーハンドででも正弦波を書いてみると解ります)
(アンテナ上では数%ほど波長が短くなる現象も考慮していません)
先端から126.47mと比べたら50cmは微々たるもので、電圧は高く、電流はゼロで無くてもかなり小さいと想像できますね。抵抗値[電圧÷電流] (インピーダンス)も高いでしょう。

送信機出力とアンテナ入力のインピーダンスが合わないと高周波電流はうまくアンテナに流れずに送信機側に 反射し、最悪時には送信機を破壊します。
では、送信機側のインピーダンスを合わせろ、ということになりますが、玩具のトランシーバーで無い限り不経済です。
というのは、アンテナの高いインピーダンスに合わせるには[電圧÷電流](インピーダンス)ですから、 電流を小さくして電圧を上げる事になりますが、[電力=電圧×電流]ですから、同じ電力を作り出すには電圧が高くなりすぎて送信機の部品が保てなくなりますし、保守管理するにも危険だからです。
一方、受信機のアンテナ入力インピーダンスを上げるには高電圧の心配が無いので簡単で、今号では説明しませんが、ラジオなどでは高いインピーダンスに設計されています。

インピーダンスを合わせても、問題はアンテナに送り込んだ高周波電流が電波となって飛んで行く割合です。
アンテナに乗っている電流が電波に寄与すると考えれば、電流は0から先端から50cmまでの距離に相当するぐらいしか増えていないのですから極めて少しか電波とならないと考えられます。
これについての詳細な説明には 実効長 や 実効高 という概念が必要なので省きます。

電波を効率よく放出するには、大きな電流をアンテナに乗せなければなりませんから、中波帯(MW)ラジオの様に低い周波数を使う場合は波長が長いために送信アンテナが大きくなります。
アンテナ用鉄塔そのものをアンテナにし、それでも高さが足りないので、こうもり傘の骨の様に放射状に金属棒を広げて付けたりします。 これは、大地との間にコンデンサーを作り、アンテナの長さを補う工夫です。

中波ラジオより低い周波数は長波(LW)と言われ、大地に沿って伝播する周波数なのでロシアなどの大陸国では一般向けのラジオ放送に使われることがあります。
オールバンド受信機やBCL受信機と言われるラジオには100kHzぐらいまで受信できるものがあります。

更に低い周波数の電波を扱うもので最近身近になってきたのが 電波時計 です。これは時刻合わせに標準電波を使うものですが、標準電波(東日本用)は周波数40kHzです。
少年ぐらいの若い方には20kHzの音まで聞こえるといいますから、40kHzはこの2倍に過ぎない超周波数の低い電波です。
この標準電波は公表されている資料に拠りますと、送信所名称 郵政省通信総合研究所おおたかどや山標準電波送信所
送信周波数    40 kHz
アンテナ     250 m主鉄塔による傘型アンテナ
送信機出力    50 kW
実効輻射電力   10 kW以上
運用時間     連続運用
となっています。
アンテナの高さは250mもありますが、これでも足りずに上部に傘を付け、しかも、50kWもアンテナに送り込んでその5分の1の10kW以上しか電波にならないのです。 (こんな非効率な周波数を使うのは、位相の変動が少ないなど安定して伝わるからですが)