夢を見る理由とは、フロイドの説から神経伝達物質まで
巷に溢れる夢占いや夢精神分析が正しいのなら、神が万人に平等に与えてくれた最大の贈り物ですが・・・
さて、夢占いや夢精神分析を支えている根拠は フロイド (注1)の説に始まります。
- 夢は潜在意識の表現
- 夢の映像は夢を見ている人の使う言語に関係している
- 夢に表現される潜在意識は夢を見ている人に影響を与える
- 社会的に忌避されているものが潜在意識に影響を与える
- 夢は人間の精神の全体像を反映している
- 潜在意識下には幾つかの人格があり、表に出ている人格はその一部である
- 潜在意識下にある人格は表に出たがっている
- 潜在意識下にある人格の中核は神的である
フロイドとユングは考え方が違うにせよ、人間の行動・情動(注2)があるものに支配されていると考え、それが夢に出ると考えている訳です。
心理学や超自然現象としてはおもしろい話題かも知れませんが、正直言って占い遊びの範疇でそれ以上真剣に考える問題では無いと思ってます。
夢は起床後憶えているかどうかにかかわらず殆どの人が見ていると考えられています。しかし、本当に自覚しない夢があるかは誰にも判りません。
夢は レム睡眠中(注4)に見ていると言われるので、脳波のレム睡眠の出現回数と寝顔で判断するのだと思いますが。
さて、殆どの人が見ているとすれば、夢とは何なのか、改めて問題に浮かんできます。
その答えの一つに、 記憶の固定化の際に生じるのが夢という説 があります。
俗に寝る子は育つと言われていますが、事実、睡眠中には成長ホルモンが出ています。
子供だけでなく大人でも成長ホルモンが出て、傷ついた細胞の修復が行われています。
脳でも成長ホルモンがタンパク質の合成を促し、その結果として夢を見る(レム睡眠に陥る)という考えです。
もう一つの説は、 記憶を整理するときに夢を見てしまう というものです。
この説によれば、覚醒時(起きている時)に詰め込んだ記憶は脳(大脳皮質)のあちらこちらに分散して存在します。
睡眠中にこれらの記憶を整理にかかるのですが、同じ内容のものや記憶の断片を消そうとするとそれらの記憶に関係する他の記憶まで想起してそれが夢になるというものです。
しつこく説明すると、パソコンに取り込んでいるデーターの整理みたいなものです。
同じ内容や類似のファイルがあったり。整理していると思い出したくも無いものが浮かんできてしまいます。
夢が断片的であったり、出演者は過去に出会った人が殆ど、というような事がこの説を裏付けるのかも。
これらの説もやっぱり掴み所が無いですね。
夢には奈落の底に落ちたりするものが多いですが、覚醒時でも病的な不安、 恐怖症 、 脅迫神経症 (注5)に悩んでいる方が居ます。
それを治療するために薬を使う研究がありますが、それによって夢との共通点が浮かび上がっています。
先ず、これらの精神疾患の治療法ですが、不安感が強い時には、 ドーパミン (注6)や アドレナリン (注7)を伝達物質に使う モノアミンニューロン (注9)が激しく活動しています。
モノアミンニューロンの活動を薬で抑制させると不安感が解消します。
恐怖神経症や恐怖症が強い時は、 セロトニン (注8)を伝達物質に使う セロトニンニューロ ンが激しく活動しているのでクロルイプラミンやセロトニンの前駆物質などで活動を抑制すると恐怖症が和らぎます。
ところで、セロトニンニューロンはメトロノームのように規則正しく動き、脳全域に神経を張り巡らし、他種のニューロンの活動を刺激したり抑制したりする働きがあります。
モノアミンニューロンにも脳全域に神経を張り巡らして規則正しく活動しているものがあります。
ですから、これらのニューロンは、脳に存在する多くのニューロンを統制しているのかも知れません。
さて、夢との共通点ですが、 覚醒時にセロトニンニューロンやモノ アミンニューロンの活動を直接停止させると、睡眠中のレム睡眠の時間が減ることが確認されています。
ということは、夢を見ているといわれるレム睡眠はセロトニンニューロンと一部のモノアミンニューロンの活動を停止させるためにあると考えれます。
前述したようにセロトニンニューロンと一部のモノアミンニューロンが脳の他種のニューロンを統制しているならレム睡眠中は統制が効かなくなって夢を見るのかも知れません。
夢はニューロンが統制から解放されて生じるらしいことは判りましたが、夢の正体は不明です。
脳には色々な人格(?)があり、統制から解放されたものが表現されるのが夢かも知れませんし、解放されたニューロンの揺らぎ誤動作のために起こる副作用だけかも知れません。
それとももっと重要な意味があるのかも・・・・
注1: フロイド (Sigmund Freud 1856?1939)オーストリアの精神医学者
注2: 情動 怒り・恐れ・喜び・悲しみなどのように、比較的急速にひき起された一時的で急激な
感情の動き。表情のほか、心拍数・呼吸などの変化を伴う過程
注3: ユング (Carl Gustav Jung 1875?1961)スイスの心理学者・精神医学者
注4: レム睡眠 急速眼球運動(rapid eye movement, REM)の見られる睡眠。
最も深い睡眠であるが、脳波は覚醒時に似るので、逆説睡眠ともいわれる。パラ睡眠。
注5: 強迫神経症 脅迫観念に支配されて、同じ行動を反復して行う。これに対して、特定の場所や物、人に対して過敏に反応するものは、恐怖症という。
注6: ドーパミン (dopamine) 生体内でタンパク質を構成するアミノ酸のチロシンから作られる。 ノル‐アドレナリン・アドレナリンの前駆物質となる。
注7: アドレナリン (Adrenalin)副腎の髄質ホルモン
注8: セロトニン (serotonin) 必須アミノ酸のトリプトファンから作られる
注9: ニューロン (neuron)=神経細胞体 細胞から1本或いは数本の神経繊維が伸びていて、 他のニューロンとは化学物質を使って信号のやり取りをする。