身近な自然と科学

音響サラウンド・システムの仕組み

オーディオ趣味やゲーム好きな方はご存知かと思いますが、 音楽を聴くときやゲームをするときにはサラウンド・システム(Surround System)と呼ばれるものを使うことがあります。
再生音楽鑑賞では、ステレオと呼ばれる前方左右にそれぞれ1基のスピーカーを置いたものが使われるのが一般的です。
ステレオの場合、音源は前方左右のスピーカーの間にあるように感じます。
ステレオを2chと呼び、これに重低音再生専用スピーカーを置いたものが、2.1chと呼ばれています。
0.1chは重低音専用スピーカーを表していますが、再生する情報量が他のスピーカーの10分の1ということらしいです。
左右のスピーカーの再生周波数領域が若い人の可聴最高周波数である20kHzなら、その10分の1は2000Hzになります。
電話が3000 Hzまで伝送できますが、上限2000Hzなると声ではこもった感じになり聴きづらくなります。

蛇足になりますが、2.1chというシステムは、スピーカーが小型化されてから現れたと思います。
重低音は方向感が判りづらいので2.1chでは重低音用スピーカーが1基ですが、方向感が判りづらいと言っても判るときがありますから、 重低音用も左右に設けるのが本当です。
一般家庭用ステレオのスピーカーが大きな木箱だった頃には、その木箱の上半分に、高音用、中音用のスピーカー付き、 下半分に重低音用に直径30cm位のスピーカーが付いていました。
高音、中音、重低音用スピーカーそれぞれには、大きなコイルとコンデンサーで構成されたフィルターで周波数帯域を分けて入力します。
帯域を分けて入力しないと再生音が歪みますが、フィルターで帯域を分ければ再生音の位相がずれます。 昔のオーディオマニアは悩んでいたようです( オーディオマニアは聞き分けられるらしいのです)
更に蛇足:プラスチック円盤にらせん状の溝を刻んで録音していたアナログのレコードでは、 両隣の溝に触れないようにするために振幅が制限されていましたから大きな音は音量を制限して録音していました。
また、レコードの溝の変化を針が擦りながら再生するので擦れる音が混じって再生されるので、擦れる音が大きい高音部の音量を上げて録音し、再生時には高音部の音量を下げて擦れ音を目立たなくしていました。
ですから、アナログレコードの再生音が自然というのは間違いで、デジタルとアナログのどちらがよいかは、所詮どちらも再生音ですから好みです。

サラウンド

聴く人の周りにスピーカーを幾つも配置して各々から別の音を再生します。
原理的には演奏などを聴く人の周囲に幾つものマイクを設置してマルチチャンネル録音し、録音したときのマイクの位置にスピーカーを置いて再生すればよい訳です。
サラウンドの録音と再生の基本図
音源近くにマイクを設置しないと違和感が出るように思いますが、そこまで考えたら面倒です。 (音源近くで拾った音がそのまま聞き手の耳に飛び込む訳では無い)

DVDやデジタルテレビでは、音声用の記録帯域が狭いので、5.1chサラウンドです。
(前方、前方左右、後方左右に一基づつのスピーカーで5、重低音用スピーカーで0.1です)
音源がBD(ブルーレイ)では、5.1chに聴く人の左右に一基づつを足して、7.1chになっています。

ヘッドホーンで、サラウンドの5.1chや7.1chを楽しめるものが売られています。
これは、ヘッドホーンの中に幾つものスピーカーが入っているのではありません。
この仕組みを知るには、先ず、人が音源の方向を判別する方法を考えてみます。
音で信号を伝えるには、音の大きさを変える、音の位相を変える、音の周波数を変えるの3方法があります。
この中で音源の方向を知るのに使えるのは、音の大きさと位相です。

人の聴覚特性として、大きな音は近くで発生したと感じ、小さな音は遠くで発生したと感じます。
位相が変わっていない音は音源から耳に直接飛び込んできたと感じ、位相が180度ずれている音はどこかで反射してから耳に飛び込んだと感じます。

この聴覚特性を利用して、前方左右のスピーカーから出す音に位相をずらした音を適当に混ぜれば、音が反射しているように聴こえて広がり感が得られます。
後方にスピーカーを置くことが難しいテレビに多い方式のサラウンドで、前にあるスピーカーだけで足りるので前方サラウンドと呼びます。
擬似サラウンドですが、好みです。

前方サラウンドには、前のスピーカーから出す音を部屋の壁に当てて反射音を得るものもあります。 この場合は、音が反射する壁が無いと使えません。

人の聴覚特性を知ると、頭と耳たぶが方向を知るのに重要な役割を果たしていることが判ります。
たとえば、音源が左側にある場合は、頭が障害物になって右耳に入る音は左耳より小さくなりますから、 音源は音が大きく聴こえる左側になります。
また、同じ音源が前方と後方に同距離であった場合は、耳たぶが障害物になる後方の音源は聞きづらくなります。
これによって、音源が前方か後方かが判ります。
ただ、あまり周波数が高く無い音源の場合は、正面と真後ろでは耳たぶが大した障害物にならず、音の位相も同じなので判別がし難くなります。
サラウンド 左右の耳に到達する音の図
それを補うのが視覚です。
目からの情報は他の感覚器からの情報に大きな影響を与えます。
目からの情報がまったく得られない、たとえば、夜の草原で虫の音を聴いた場合には、視覚情報は無く、音の反射も無いので、正面と真後ろの判別が難しくなります。

ヘッドホーンを使ったサラウンドの場合は、音源には5.1か7.1の音が個別スピーカー毎に録音されているので、 上図で示した経路で左右の耳に入る音の強弱や位相を変えてから左右のヘッドホーンに出力しています。音の強弱や位相は、各チャンネルの音をデジタル信号に変換してから計算によって音の強弱や位相を変え、その後にアナログ信号に戻してヘッドホーンに出力します。
ですから、録音したものでは無くて人工的に作った電子音が頭の周りを回っているように感じさせることが出来ますし、通常のステレオ2ch録音の音楽を擬似的にサラウンド音楽にすることも出来ます。
試してみたい方は、パソコンに 「RazerSurround」というフリーソフトをインストールして聴いてみてください。
無料使用では音質などは変えられませんが、おもしろいソフトです。(スマホ用サラウンドアプリもあります。)

ヘッドホーンを使ったものも擬似サラウンドだと言う方も居ますが、 左右の耳の中に小さなマイクを入れて録音し、 それをステレオ・イヤホーンで聴くとリアルに聴こえるようなので(バイノーラル録音) このバイノーラル録音を逆に辿って上手く音声加工できれば、 かなり精巧なサラウンドだと思います。
しかし、長時間聴くにはステレオ2chの方が疲れなくてよいと思います。
テレビ画像の3Dが流行らなかったように、私たちは日常的に多くの情報を取り入れている訳ではありません。
それどころか、考え事をしているときに聞き逃すように必要としない情報は遮断しています。