台風の眼が出来る理由
気象衛星が撮った台風の写真を見ると、雲の渦巻きの中心あたりに雲の無い部分があることがあります。
この雲の無い部分を『台風の眼』と言います。
居住している所が台風の進路になったときには、台風の眼の中に入り、 殆ど無風で、夜なら星が奇麗に見えたりします。
台風は『低気圧』の一種です。
低気圧というのは、周りより気圧が低い部分を言い、空気は気圧の高い部分から低い部分に流れ込むので 気圧が最も低い台風の眼が雲に覆われないのは奇異です。
また、気圧が低い部分が晴れるなら低気圧の中心はいつも晴れていて良いはずですが、 そんな話は聞いたこともありません。
『台風の眼』について説明する前に台風の風が渦巻きになる説明をします。
風は気圧の低い部分に向かって吹きます。
なぜそうなるかと言うと、先ず、気圧が低いところは空気を構成している分子の数が 少ないという事実を確認しておいてください。
分子の数が少なければ多い所の分子が入り込もうとするのが自然の摂理です。
バケツに張った水に水性塗料を一滴落とせば水全体が僅かに染まるように何でも平均にするというのが自然界です。
気圧の低い部分に流れ込む風の強さは、気圧の差が大きいほど強くなります。
言い換えれば、気圧の差を無くすようにする(空気分子の数を同じにする)力が強くなります。
気圧の差は『気圧傾度』と呼ばれます。
次に風の方向ですが、これも自然の摂理に従い、一番近い経路、すなわち、等しい気圧の所を結んだ線に直角に気圧の低い部分に吹き込みます。
天気図なら等圧線に直角です。
ところが、観測結果を見ると、風は等圧線に直角ではなく傾いて吹いています。
この原因は、地球が自転しているからです。
風の方向を変える力を、『コリオリの力』或いは『転向力』と言います。
これは、座標(地球)が回転しているために起きる見かけ上の力です。
コリオリの力の向きは、地球の回転方向とは逆方向です。
北半球では地球は左回転なので、コリオリの力は右向きに働きます。
レコードプレイヤーのターンテーブルように回転する物がありましたら、 観測者であるあなたは、ターンテーブルの上に居ると思ってください。
上図の2つの灰色の円盤はOを中心に赤い矢印方向に回転しています。
今、時刻t0のときに円盤の中心に居る人が赤丸Aに向かって矢を放ちました。
このとき、円盤の中心に居る人には右図のように回転方向とは逆の方向に曲がって当たったと見え、 赤丸Aから見た人には矢は真っ直ぐに飛んできたように見えます。
中心に居る人には矢の痕跡を曲がらせて見させた力をコリオリの力(転向力)と言います。
円盤の中心に居る人の座標は矢印方向に回転していると思ってください。
レコードプレイヤーのターンテーブルのように回転する台の上で 小さな球を転がす実験をすれば一目瞭然なのですが、ちょっと理解し難いです。
コリオリの力を受けて右に曲がろうとする風ですが、 等圧線に直角に進もうとする力も働いているので、両者の力が釣り合った方向に進みます。
この釣り合った方向は、気圧の低い部分を左に見て等圧線に平行になります。
これは『ボイス・バロットの法則』と言い、等圧線に平行に吹く風を『地衡風』と言います。
これでも、まだ観測結果に合いません。
地上付近では、地衡風を邪魔する、地面との摩擦があります。
大雑把に言えば、気圧傾度によって起こる力、コリオリの力、地面との摩擦力 の3つの力が釣り合った方向が風の向きになり、30度程度傾きます。 そのため、中心に向かって左回りの緩い渦となります。
ここまでは、普通の低気圧の話でしたが、いよいよ、【台風の眼】の話になります。
台風は、普通の低気圧と異なり、中心近くで急に気圧が低くなります。気圧傾度が大きい訳です。
その結果、風が強くなり、コリオリの力や地面との摩擦力は相対的に小さくなり、激しく渦を巻き始めます。すると、遠心力も強くなります。
大きな気圧傾度の拠る力と遠心力が釣り合って、 風の向きは等圧線に平行となり、中心の周りを強風となって回り出します。
そのため、外部から中心部に気流が入り込めず、中心部は雲の無い無風状態になります。
これが、【台風の眼】と言われるものです。
中心を回る風の向きは、もちろん、北半球では左回りです。
コリオリの力は無視されるほどの強風ですから、右回りでも良いと思うのですが、右回りは成長できないので、 コリオリの力は重要なようです。