雲が落ちて来ない理由
雲の出来方の説明
雲は地表上の湿った空気が上昇気流に乗って気圧の低い上空に上がり、断熱膨張 し、温度が下がり、 空気中に含まれていた水蒸気が液体になることによって出来ます。
上昇気流は低気圧や台風などのように気圧が低い所に周囲の空気が流れ込み、より気圧が低い上空に向かって流れる(上昇)する場合もありますし、地面や海面が太陽熱で温められ、その近傍の空気が軽くなって上昇する場合もあります。
前者の場合は局地的な現象ですが、後者の場合は夏場の局地的なものと、赤道付近で起きる地球規模の大気の循環があります。
その他に何処にでも起きている上昇気流があります。
こうして、空高く昇った湿った空気の塊ですが、その周囲は気圧が低いので膨張します。
気圧というのは、空気を構成する窒素や酸素の分子が動き回って物に当たったときの平均的な力ですから、上空の空気が薄い所では分子が少なく、当たる分子も少なくて気圧が低い訳です。
その分子の少ない所に分子がたくさん詰まった塊が来れば、塊中の分子は分子の少ない所に移動します。
温度は分子運動の激しさの平均的なものを数量で表しているものと言えますから、分子数が少なくなれば温度が下がるということになります。
どのくらい温度が下がるかは、理想気体の場合は ポアソンの法則
気圧×(気体の体積の気体の比熱乗)=定数
を使います。
膨張して温度が下がる現象を断熱膨張冷却 と言いますが、 空気の塊中の分子が周囲の分子を押し退ける仕事をするのでエネルギーを失って温度が下がると答えた方が学校の先生は喜ぶかも知れません。
上述のように空気の塊の温度が下がると、空気塊に含まれていた水蒸気が液体の水になります。 地上の話なら、結露と露点です。
夏季はクーラーを使うことが多くなりますが、室温が下がるだけでなく湿度も下がるのは、 室内の空気がクーラーの冷却器に触れて下がると、その空気が含むことが出来る水蒸気量が少なくなり、液体の水として出てその水はクーラーの配水管から屋外に排出されるからです。
冬季に乾燥するのも気温が低いために空気がたくさんの水蒸気を保てないからです。
気温が下がることによって空気中から追い出された水蒸気は小さな水粒になります。この水粒の集まりが雲です。
雲を構成する水粒の大きさは直径0.002~0.02ミリメートル、 密度は1立方センチメートルあたり10~1000個のようです。
さて、小さな水粒でも重力が働いていますから落下しますが、気圧が高く温度が高い所に落ちる訳ですから再び水蒸気になって上昇します。
変化が無いように見える雲でも絶えず生まれ変わっています。水粒が大きくなり過ぎると、上昇気流に乗れずに落下して雨や雪になります。
何処にでも常時ある上昇気流について
ところで、ここで冒頭に触れた何処にでもある上昇気流の話を書きます。実はこの話は空気が地表に落ちない理由の説明と同じです。
雲の水滴だけでなく空気を構成する窒素や酸素分子にも質量がありますから、重力に引かれて落下しても不思議は無いのですが、 常に上昇気流が存在するので実際は落下して地表に積もりません。
では、この上昇気流の説明に入ります。
大気中の或る部分をサイコロの様な正六面体で囲ったと仮定します。下図は平面ですが、この図と直角方向は左右方向と同じ力が働いているので左右方向の説明と同じです。
但し、この正六面体を作っている材質の質量はゼロとし、大気の物理的性質は均一、静止しています。この中に入っている空気の質量はmです。
そして、この正六面体に掛る水平方向の力は釣り合っているので無視します。上図のF2とF4です。
水平方向にも空気を構成する分子があり、分子は動いて正六面体の側面に当たって力を及ぼしますが、 例えば、右側面に当たる分子があれば、左側面に当たる分子もあるので全体としては釣り合っていると考えられます。
実際、水平方向の力を加えないで物を落とすと、真っ直ぐ下に落ちるのは周知の通りです。
次に正六面体に掛る上下方向の力を考えます。
上面には、この上面より上方にある空気の重量が下向きに掛っています。上図のF1です。
下面にも上面に掛っている空気の重量と同じだけの力が上向きに働いています。上図のF3です。 この上向きの力が無いと、家屋や私たち自身が大気の重さ(大気圧)で潰れてしまいます。
これは、「密閉された容器中の気体または液体の一部に力を加えると、全ての部分に同じ力が作用する」という パスカルの原理 です。
と考えると、上からの重力と同じだけの下からの力で上下方向の力も釣り合っていますが、このままでは正六面体の中には空気の分子が入っているので質量 がありますから、この正六面体は落ちてしまいます。
この正六面体の下の空気も同様な理由で落ちるのですから支えてはくれません。
ここで実際の大気層の、上方と下方には温度差があり、分子の密度も下方が高いという性質を考慮してみます。
すると、正六面体の下面は上面より、激しく動き且つ多くの分子に押されることになります 。上図のFuです。
この押す力が正六面体中の分子に掛る重量の和より勝れば、この正六面体(空気)は上昇していきます。
こんな理屈を捏ねなくても空気の分子が地表に落ちると、その下層ほど密度が増して上向きの圧力が高くなり、空気分子の各々は重力と圧力のバランスを保ちながら上層まで漂っている、 ということでしょう。
次に空気を構成する窒素分子や酸素分子などの分子集団の振る舞いで考えてみます。
或る高さにある分子Aは高さに応じた位置エネルギーを持っています。 この分子Aより低い位置にある分子Bもその高さに応じた位置エネルギーを持っています。
ここで分子Aが落下しながら分子Bに衝突すると、分子Aが持つエネルギーの一部が分子Bに移りますが、衝突前の分子Aが持つエネルギーと分子Bが持つエネルギーの和と、衝突後の分子Aが持つエネルギーと分子Bが持つエネルギーの和は変わりません。
これは物理の教科書に出てくる“エネルギー保存の法則”ですが、分子と分子の衝突は、分子集団の中では連鎖的に起きますが、閉じられた分子集団全体としてはエネルギーを失わない訳です。
また、空気の主成分である窒素と酸素の分子は常温では電磁波(可視光や赤外線、電波など)を放出しないので空気全体としてはエネルギーを失いません。
実際は分子が地面や樹木、建造物に当たったときには分子の持つエネルギーの一部は熱となって、地面などに吸収されたり、再び空気の分子に吸収されます。
また、空気中にある二酸化炭素の分子は常温でもエネルギーを赤外線として宇宙に放出するので空気からエネルギーを奪う原因になります。
しかし、昼間は太陽が地面などを温め、空気の分子を温めるので、空気からエネルギーが無くなることはありません。
太陽から遠い惑星では、気体分子がエネルギーを失って液体や固体になります。
私自身何を書いているのだか迷い、何度も書き直したほど(まだ何かおかしい気がしています)
堂堂巡りになるような長い説明になりましたが、夏の熱い太陽とか低気圧と言わなくても上昇気流は何処にでもあり、その気流の押し上げる力と重力が釣り合う大きさや質量を持った水粒なら雲として浮かんでいられることになります。