古代ギリシャの遺跡に柱が多い理由 コンクリートと鉄のメリットとデメリット
下の写真は、ギリシャ神話上最大の女神アテナを祀ったアテナ・パルテノン神殿です。
紀元前438年に完成したパルテノン神殿には、象牙と金で造られた高さ10mのアテナの女神像がありましたが、紀元後5世紀、神殿がキリスト教教会に変えられると女神像は消えてしまい、高さ1mほどの複製品がその姿を後世に伝えているだけです。
神殿の柱の直径は約190cmで、建物の周囲に46本建っています。
直径190cmもの太い柱を46本も建てながら天井が落ちてしまっているというのは不思議ですね。
石は圧縮方向には強く、引っ張り方向には弱い
アテナ・パルテノン神殿に限らず、古代ギリシャやローマの遺跡には天井が無くて柱だけが残っているものが数多くあります
この疑問を解く鍵は、建物が石で造られているこ とにあります。
下図を見ると解るように、柱の間に石の天井を載せると、載せた石は自分の重さで中央部分が下に垂れ下がります。
すると、一番垂れ下がった部分(中央)の下部は左右方向に引っ張られます。
石は圧縮される方向の力には強いのですが、引っ張られる方向の力には弱いために、亀裂が入り、 そのことによって天井はなお垂れ下がり余計に亀裂が大きくなって最後には天井が落ちてしまいます。
圧縮強度(圧縮する方向の力)は、 花崗岩:1平方センチメートルあたり約1万5千N
大理石:1平方センチメートルあたり約1万2千N
砂岩:1平方センチメートルあたり約5千N
で、引っ張る方向の強度は圧縮強度の10分の1から30分の1となっています。
また、石は水を含むと強度が弱まります。
ところで、コンクリートも圧縮方向の力には強いのですが、引っ張る方向の力には弱いです。
コンクリートは小さな石を「水和」という化学反応で固めたものなので、石の中では砂岩と似ています。
コンクリートの圧縮強度はセメントや水、骨材の配合割合で変わりますが、 1平方センチメートルあたり約2千N程度です。
引っ張り方向の力を圧縮方向の力に変えるアーチ構造
石造りの建物で天井が落ちないようにするには、石が弱い引っ張られる力を、石が強い圧縮方向に変えるような造り方をすれば良い訳です。
そこで、下図のようにアーチ型構造に石を組むと天井部分の自重が石を圧縮する方向に分散されて石の弱点が補われます。
古代ローマの水道橋はアーチ構造になっているので橋桁と橋桁の間も現存している訳です。
引っ張り方向に強い鉄と圧縮方向に強い石の組み合わせ
しかし、後世の人たちは石と鉄を組み合わせることによって建造物をより強固にすることに成功しました。
鉄筋コンクリート造りの建物です。
コンクリートは砂岩と同じなので圧縮方向の強度は大きいですが、引っ張られる方向には弱い。
一方、鉄は圧縮方向には弱いですが、引っ張られる方向に強い(1平方センチメートルあたり約4万N)ので両者を組み合わせると丈夫な建造物が出来ます。
石と金属の強度の違いは原子の結合の違いによっています。
また、錆び易い鉄が建造物に使われている理由は安価であることの他に、引っ張られる方向に強い金属であることです。