身近な自然と科学

位相まで一致している光・レーザーを作る方法

私が子供の頃の怪獣映画には、必ずと言って良いほど、“レーザー銃”とか“レーザー砲”が出てきました。レーザーと言ったら武器という時代でした。
それから、数十年経った今日、レーザーは民生機器には欠かせない物となっています。
一家に1個はレーザーがあると言っても過言ではありません。 パソコンや音楽用のCDプレイヤーやDVDプレイヤーには無くてはならないものです。車の排ガス検知に使われている場合もあります。 また、光ファイバーを使った光速大容量通信にも欠かせないものです。
ところで、レーザー(LASER)の語源は、 L:light(光)、A:Amplification(増幅)、S:Stimulated (誘導)、E:Emission of (放出)、R:Radiation (放射)となっています。

レーザー(光)の発生の仕組み

物質に外部からエネルギーを与えると、この物質中の原子や分子の持っているエネルギー値が高くなります。励起状態と言います。
エネルギーをもらって2階に上がったようなものですが、この励起状態は安定したものではなく、自然と元のエネルギー値の低い状態(1階)降りてきます。
この時、必要でなくなったエネルギーを光として放出します。
放出される光の波長は、励起状態と元の状態のエネルギーの差が大きいほど短くなります。
人の眼で見える範囲の光り・可視光でしたら、エネルギー差が大きいほど紫色に近づき、エネルギー差が小さければ赤色に近づく訳です。
但し、光が出てもこれではレーザーになりません。照明や表示灯に使われているLEDになるだけです。

そこで、励起状態にある原子や分子に光を当ててみます。
条件が合えば、励起状態の原子や分子が元の位置に戻る時に放出される光は、当てた光と同じ波長・位相・偏光状態のものとなります。 これを誘導放出 と言います。
誘導放出は、合唱の時に声量の大きなパートに引き込まれてしまって自分のパートを忘れ、声量の大きなパートを唄っているようなものです。
見方を変えると、励起状態の原子や分子に当てた光からは、誘導放出で出た光が合わさったので光が増幅されたと見えます。
“誘導”“増幅”という語句も出てきましたが、まだレーザーにはなりません。
放出された光は僅かですし、物質中の原子や分子の状態が均一でないので放出された光の波長も不均一です。
特に気体を使った場合は、分子が動き回っているのでその影響が強く出ます。

今度は一度放出された光を鏡で反射させて、励起状態にある原子や分子に当ててやります。
ここで前の段の説明を思い出して下さい。
当てた光に誘導放出された光が加わって、全体として光の量は増えるのです。増幅です。
例えば、量1の光を励起状態の原子や分子に当てたら量1の光が出ると仮定します。
すると、1回目で、量1の光が量2に増えます。
その量2を鏡で反射させて励起状態の原子や分子に当てると、2回目で量4になります。これを繰り返すと3回目で量8になります。4回目で量16になります。
他の条件が許せば、16が32、32が64・・・・・と、永久に増え続けます。
これを発振と言います。

発振がピン!と来ない方はカラオケを思い出して下さい。
マイクをスピーカーに向けてボリュームを上げると、「ピー」とかいうような大きな音が出てしまいます。スピーカーから出た僅かな音をマイクが拾い、アンプで増幅されて少し大きな音がスピーカーから出ます。
その音をマイクが拾いアンプで増幅して、もう少し大きな音がスピーカーから出て、それをマイクが拾い・・・を繰り返して、最終的には「ピー」と鳴って しまう訳です。この現象も発振です。

レーザーに戻りまして、誘導放出された光を反射させる鏡は、励起させる物質を挟むようにして対向させて平行に2枚置きます。
光は、この2枚の鏡の間を往復しながら原子や分子を励起、誘導放出させ、誘導放出された光が加わって発振状態でどんどん強い光になります。
ここで片方の鏡は、一定以上の強さの光は通過させるようにしておきます。
すると、一定以上強くなった段階で強い光の一部が外部に出てきます。
鏡の間隔も重要です。放出された光が強め合う距離です。鏡の間を往復する光に180度位相が違うものが出来るような間隔では打ち消し合って弱まってしまいます。 この鏡の間隔が均一な波長のレーザーを出させます。
また、発振と言う現象は、鏡の間隔を含めて条件が揃った場合のみ起こる現象で、波長が少しでも違う光では発振状態にならないことも、均一な波長のレーザーを出すことになります。

これで、レーザーの完成です。
もっと簡単なレーザーのイメージは、楽器の笛と同じです。笛から出る音は息を吹き込んで起す空気振動の中から笛の筒の長さに合った波長の音だけが出ます。笛の筒の長さが2枚の鏡の間隔に相当するわけです。

位相というのは、光を波と考えた場合に、二つの波の高い部分が一致したら位相が合っていると言い、(低い部分同士が合っていても良い)
一方は高い部分、もう一方は谷の部分なら180度位相が違うと言います。
同じ大きさの波の場合は、180度違うと打ち消し合ってゼロになってしまいます。

書き忘れましたが、誘導放出させるための最初の光は外部から与える必要はありません。何らかの原因で内部で生じた光が使われます。カラオケの発振現象でも改めて最初の音を出さなくても発振するのと同じです。
もう一つ重要な事を忘れていました。発振は無限に大きくはなりません。励起させるエネルギーや物質が足りなくなった所で頭打ちです。カラオケの場合は、アンプの最高出力で制限されます。

世界初めて成功したレーザーは、“ルビーレーザー”で、1960年の事です。
励起させる物質は、宝石のルビーです。キセノンフラッシュランプの光エネルギーで励起させました。

現在、物の切断などの加工用に最も使われているものは、“YAGレーザー”と言われるものです。
イットリウム・アルミニウム・ガーネットを励起させて、近赤外で10-100ワットの出力が得られます。 励起させる為に使うエネルギーは、キセノンフラッシュランプの光か、よう素ランプやクリプトンアークランプの光です。

私たちに最も身近なレーザーと言えば、CDプレイヤーなどに使われている半導体レーザーです。
1962年に作られ、発展中です。
励起させる物質は、GaAlAsや鉛塩などの化合物半導体で励起させる為に使うエネルギーは電気を直接使います。
半導体レーザーの大きな特徴は、レーザーの変調が高速で出来ることです。変調と言うのは、キャリア(この場合はレーザー)に情報を載 せることです。 ラジオは、電波に音声を載せています。光ファイバーを使った高速大容量通信では、この特性は非常に重要です。
その他、小型軽量、電源電圧が2ボルト程度で良いことなど、通信に使うには良い事ずくめなのですが、欠点は、周囲の温度によって特性が変化することで、これは、レーザーに限らず、半導体の持つ宿命的欠点ですが。また書き忘れてました。 半導体レーザーには寿命があります
普通、半導体で作られた電子部品は半永久的に使えるのですが、半導体レーザーの場合は、有限です。1万時間程度かも???