身近な自然と科学

氷や雪の上が滑ってスキーやスケートが出来る理由

冬、スケートやスキーが趣味の方には嬉しい季節の到来だと思います。
が、なぜ氷や雪の上は滑るのでしょう?

氷や雪の上を滑るとは?

小中学校の理科の時間を思い出すと、角度が変化させられる斜面を作り、その斜面に色々な材質や形状の物を置いて、 「これは斜面の角度が××度になったら滑り落ちた」などと実験して、そこから“摩擦係数”なるものに話を持って行く訳です。
ともかく、滑る滑らないの原因は、物が触れ合っている部分の“質”によります。
物体Aと物体Bを接触させて滑らせた場合、(前段の話なら斜面がAでその上に載せる物体をBとして)、A,Bとも紙やすりのようなザラザラ状態なら滑りが悪いですし、 かと言って、A,Bとも研磨してツルツル状態でも滑りが悪いでしょう。
それは、A,Bの接触面が完全に磨かれて隙間が無ければ、大気圧によってA,Bは周りから押さえつけられるからです。
エアーホッケーやホバークラフトのように空気を噴射させて、或いは、リニアモーターを使った高速鉄道(中央新幹線)のように磁気の反発力を利用して浮かせ、 A,Bの間に空気層を作っても、空気も物質である以上粘り気(粘性)があるので完全ではありません。
ということで、完全に滑らせるというのは至難の業です。

不完全ながら最も手軽で実用に供せられている方法は、物体A、B間に油等の潤滑剤を挟む(塗る)ことです。
潤滑剤は、その物質を構成している原子や分子間の結合力が弱い為に滑る 訳です。原子の結合力を積極的に利用しているのが鉄道の機関車です。⇒ レール面が滑らかでも機関車が滑らない理由
潤滑剤に使われる油が複雑な形状の容器にも隙間無く入ることで、油の分子間結合力が弱いことが判ります。

氷の上が滑る理由

氷氷の場合も潤滑剤があるのでは、その潤滑剤の役割は水が担っていると考えるのは、「完全に凍った雪より水っぽい雪の方が滑る、融け始めて水膜に覆われた氷の方が滑る」という、日常経験から正当性があると思われます。
問題は、その水が何処からもたらされるか? です。
外気温が摂氏零度以上なら、氷や雪の外気に接している部分が融けて水になるので納得できますが、実際は、マイナス20度、30度という厳寒でも滑る訳です。 それどころか、雪質が良いという理由で、厳寒地方でスキーの国際大会が行われるのも珍しくありません。

1939年ケンブリッジ大学のバウデンとヒューズは、スキーの板と雪の間の摩擦熱で雪が融けて水になり、その水が潤滑剤の役割をして滑ると考えました。
彼らは、エボナイト(硬質ゴム)で2つのスキー板を作り実験しました。
一つは、エボナイトで作った板の中を空洞にして熱伝導率を小さくした物。
エボナイトは、熱伝導率が悪いのですが、空洞を作ることによって、いっそう熱伝導率を小さくして、雪と板との間で生じた熱が板を伝わって逃げることを防いで、 雪を溶かす方に向けた訳です。
もう一つの板は、エボナイト板に空洞を作って、その空洞に水銀を詰めました。水銀は熱伝導率が大きいので、生じた摩擦熱は板を伝わって逃げてしまうようにしたのです。
実験結果は、熱を逃さないように空洞を作った板の方が良く滑りました。
彼らは、その他、ワックス(スキー板に塗る)の研究などからスキーが滑る理由は摩擦熱によって水が生じるためだとしました。

しかし、この研究だけでは、疑問が残りました。摩擦熱が起きないように、そっと氷に載っても、またはゆっくり歩いても滑ります。
そこで、1971年ケンブリッジ大学のバーンズ、テイバー、ウォーカーは、 氷は、“クリープ(塑性変形)”に因っても滑る とと考えました。塑性変形とは、変形しやすい性質です。
氷が変形するというのは信じ難いのですが、これは氷の分子結合の仕方に原因があります。

水の分子は四面体配位で結合していますが、他の分子と結合する手が足りなくて、他の分子と結合している部分が少ない面が出来、 結晶の形からそれが面上に並ぶという構造に出来上がっています。一つの氷は、紙のように薄い氷片を弱い結合力で積み重ねて出来ている訳です。これが滑る原因です。
畳の上に置いた新聞紙に不用意に載って滑った経験がある方も居らっしゃると思います。

完全な氷結晶で塑性変形が起こる理論値は、1平方センチ あたり 約7000kgですが、実測値は、わずか1~5kgです。
この差は、氷結晶が不完全な為に起こると考えられています。あるべき所に分子が無かったりして、構造が弱くなっている、手抜き工事の家と同じで、設計した強度が無い訳です。
体重50kg の人がちょっと重心を移動させても1~5kgぐらいの力は働くので氷が変形して滑ります。

結局、氷や雪は摩擦熱で水を生じて滑ることや、紙を積み重ねたような横滑りしやすい結晶構造になっている ということです。