IH調理器(電磁調理器)の原理
オール電化住宅やガス調理器が使えない高層マンションなどではIH調理器が使われます。 ガスコンロで見て育った私にはIH調理器は先進と思うのですが、 電磁調理器で健康を害したという話を聞くことが稀にあります。
折りよく、アムウェイ電磁調理器330218J(シャープ製)を中古で入手したので、同じくリサイクルショップで入手した
「 Electromagnetic radiation detector DT-1130 」という安価な電磁波検出器を当ててみることにしました。
電磁波測定と言いたいところですが、DT-1130なる電磁波検出器では電磁波強度の絶対値は判りません。
この電磁波検出器はかなりいい加減な代物ですが、電磁調理器の方は製造から10年経っているので設計許容値を超える電磁波が出ているのでは、などと妙な期待をしました(笑)
実験は 写真の様に木箱の上に電磁調理器を載せ、電磁調理器の上には水を入れたホウロウ鍋(16cm)を載せて行いました。
ところで、電磁調理器の加熱原理はどうなっているのでしょう。
この答えの糸口は、一般的な電磁調理器に使える鍋は鉄や一部のステンレス製に限られているという点です。 熱伝導率が良くて軽いということで普及しているアルミ鍋では電磁調理器は使えません。
電磁調理器にとっての鉄とアルミの違いは、先ず、磁石になりやすい物質か、なり難い物質かにあります。
小学生時代の理科や工作で電磁石を作ったときの事を思い出してください。
エナメル線を鉄釘などの鉄製の物に巻き、アルミ棒には巻かなかったはずです。 また、鉄製のクリップや釘を永久磁石に着けておくと、磁石から離してもクリップや鉄釘が磁力を帯びていたことを憶えていると思います。
アルミは磁石に着きませんが、強引に磁石に密着させておいても私たちが見て判るほど磁力を帯びません。
小学生時代の思い出話で判った事は、鉄は磁石になりやすく、いったん磁石になると磁力を帯びてしまって元に戻り難いということです。
磁石に成りやすい鉄のような物質は外部から磁力を与えると、その磁力に呼応して微小磁石の極性の向きが揃いやすいのです。
もちろん、外部の磁力に呼応して無償で向きを揃える訳ではありません。外部からエネルギーを貰い、このエネルギーを保持している期間は磁力を帯びています。
電磁調理器の鍋を載せる部分の下にはコイルがあり、このコイルには数十キロヘルツの高周波電流を流すようになっています。
高周波電流とは高速で電流の向きが変わる電流なので、電流によって生じる磁界も高速で向きが変わります。
この磁界中に鉄板を置くとどうなるでしょう?
鉄板中の微小磁石はコイルによって作られた磁界に呼応して磁極の向きを揃え、鉄板は磁石になります。
ところが、コイルを流れている電流は周期的に向きを変える交流なのでコイルによって作られる磁界の向きも変わります。
鉄板中の微小磁石も向きを変えなければなりませんが、小学生時代の思い出話で触れたように鉄はいったん磁石になると磁力を保ち続ける性質があります(残留磁気)
磁力を持っているということはエネルギーを磁気エネルギーとして保持しているということで、磁界の向きを変えるとき、このエネルギーは熱エネルギーとして外部に放出されます。 この繰り返しで鉄板は熱くなるのです。
磁界を作るコイルに高周波電流を供給する側から見ると、鉄板が持っている残留磁気を打ち消すために余計なエネルギーが必要になります。
これを(磁気)ヒステリシス損と呼び、磁力を強くするためにだけ鉄を用いる変圧器などでは出来るだけ少なくするようにしています。
電磁調理器の場合にはこれが熱源の一つなので大きい方がよく、磁石を着けても磁力を帯びないアルミニウムなどではヒステリシス損失が少なすぎて発熱しないということになります。
電磁調理器にはもう一つの熱源があります。
変化する磁界中に金属を置くと、金属中に電気が生じます。 これは発電機が電気を発生させる原理と同じ電磁誘導によるものですが、磁界中に金属板を置くと金属板内で完結する回路が生まれて内部で電力を消費します。
発生する電気を渦電流と呼び、渦電流の負荷は金属の持つ電気抵抗です。
ですから、渦電流の大きさの二乗と金属板の電気抵抗の大きさに比例するジュール熱が発生します。 アルミニウムは電気抵抗が 小さいのでこの点でもアルミ鍋は電磁調理器には使えないことになります。
アルミ鍋が使える電磁調理器では、鍋底に誘起される電流の周波数を上げると共にその電流を大きくしています。
すなわち、電磁調理器の鍋を置く下の部分に設置されているコイルに流す高周波電流の周波数を上げると共にその電流を大きくしています。
ヒステリシス損が少ない鍋底でも単位時間あたりの磁界変化を多くすればヒステリシス損によって生じる熱は多くなり、渦電流が大きくなれば同じ電気抵抗の鍋底でもジュール熱は二乗で大きくなるからです。
最後に、手元にある電磁調理器から出ている電磁波の実験結果です。
1300W時で、いい加減な電磁波検出器が反応したのは電磁調理器から50cm地点でした。
そして、電磁調理器の真上15cm地点で指示値500
電磁調理器のスイッチ類近接地点で1300、スイッチ類の上方5cm地点で500
電磁調理器正面から斜め上方30cm地点で300
でした。
ノートパソコンのキーボード付近でも指示値は1300ぐらいになりますから、この検知器が捉えている成分だけで判断すれば電磁調理器は大した電磁波を出していないということになります。