身近な自然と科学

気化熱を利用した冷風扇の原理とデメリット

2022年7月7日作成
2022年11月9日更新

「夏が来れば思い出す」で始まる『夏の思い出』という童謡がありますが、暑くなると通販番組に登場するのがクーラーより電気代が安くて持ち運びが出来ることをセールスポイントにしている「冷風扇」という物です。
「冷風扇」というのは、水の気化熱を直接利用して周囲より温度が低い空気を出すものです。
温度の低い空気を出すとだけ聞けばフロンなどを利用したクーラーの冷房と似て居ますが、冷風扇は湿度が高い場所では役立たないという点で大きく異なります。(フロンなど利用したクーラーの仕組みは冷蔵庫が冷える仕組みと同じです)

冷風扇の構造は、下図の様に液体の水で濡れたフィルターに送風機で空気を当てるというものです。
冷風扇の構造図
或いは、液体の水で濡れたフィルターの周囲の空気を吸い出して外に出すものです。低い温度の空気の吹き出し口を前方にして、 送風機がフィルターの前か後かの違いです。
簡単に言えば、扇風機の前に濡れた布を置いた、或いは、扇風機の背後に濡れた布を置いたのが冷風扇です。
フィルターを水で濡らす最も簡単な方法は、フィルターの下端を水に浸けて毛細管現象を利用するものです。
また、水で濡らしたフィルターを使わずに送風機の出口に水を霧状に噴霧する冷風扇もあります。
下の写真の冷風扇は、ミストを下から噴射してその後ろのファン(扇風機)で前方に出すだけです。
ミスとを使った冷風扇の写真

冷風扇で重要な「気化熱」というのは、液体の水が同じ温度の気体になるときに周囲から奪う熱量です。
液体の水と空気が接している近傍では、その空気部分に気体の水分子が入る余裕があるときには液体の水から水分子が空気中に飛び出して来ます。
液体の水は水分子が周囲の水分子と緩やかに結合していますが、空気中に飛び出す為には周囲の水分子との結合を切らなければならないのでエネルギーが必要です。 周囲からこのエネルギーを奪います、これが気化熱で、エネルギーを失った周囲は温度が下がります。
ところが、液体の水と接している空気は直ぐに気体の水分子を入れる余裕が無くなってしまいます。
冷風扇では送風機によって液体の水に接している近傍の空気を新しい空気に替えているので液体の水からの水分子の飛び出しは継続して気化熱によって周囲の温度は下がります。 勿論、常に温度の高い空気が入って来るので温度は下がり続けません
扇風機の風に当たったり、団扇や扇子で扇ぐと涼しくなるのと同じです。水で濡れたフィルターは汗が滲み出ている肌です。

冷風扇は扇風機や団扇・扇子が起こす風に当たるのと同じと解れば、冷風扇の欠点は自ずと判明します。
湿度の高い蒸し暑い所で扇風機や団扇の風に当たっても涼しく無いように、冷風扇は湿度の高い環境下では役に立たないのです。
湿度が高い環境は、空気が受け入れることが出来る水分子の量が極めて少ないかまったく受け入れられないということで、気化熱は極少しか0です。だから、冷風扇では空気の温度は下がりません。
更に悪いことに、冷風扇は加湿器と同じなので湿度を高めるので更に蒸し暑くなります。冷風扇が加湿器と同じというのは、室内の空気が乾燥したら、濡れタオルをぶら下げたり振り回せということで理解出来ます

結局のところ、冷風扇は、扇風機や団扇・扇子を使っても涼しく感じない環境下では役に立たないし、湿度を増して更に不快にし、カビを生やす原因になり得るということです。
道路や庭に水を撒く「打ち水」も冷風扇と同じ様に気化熱を利用したもので、打ち水の欠点も冷風扇と同じです。
打ち水は水を撒く環境が難しいです。日中の暑い盛りにアスファルトやコンクリートに水を撒いても焼け石に水ですし、夕暮れは気温が下がって湿度が増すので水を撒けば更に湿度が増して不快になります。
打ち水は、冷房が無くても過ごせた時代の知恵というところでしょう