身近な自然と科学

緑色野菜の緑色を保つ調理法

葉物野菜の綺麗な緑色は、光合成が行われる葉緑体の中に存在するクロロフィルの色です。
このクロロフィルには、a,b があり、クロロフィルaは緑藍色、クロロフィルbは黄緑色をしています。
2種を持っているのは光合成に使える光の帯域(波長、色)を増やすためです。
クロロフィルaは緑藍色と補色関係にある光のエネルギーを、クロロフィルbは黄緑色と補色関係にある光を吸収して利用しています。

クロロフィルは、炭素39個、水素72(70)個、酸素5(6)個、窒素4個、マグネシウム1個からなる分子です。
(カッコ内は、クロロフィルb)
この組成を見ると、自然界に有り触れて存在する炭素と水素を多量に使用し、多量に存在しても植物には吸収し難い窒素は少量、 自然界には少ないマグネシウムは1個と、よく出来ていると言うか、有るもの、利用しやすいもので作るしか無いのでしょうが。
植物が緑色をしていなくても、他の生物、人も困らないと言えば困りませんし。

本題の植物の鮮やかな緑色は、たった1個のマグネシウム原子が握っています。
調理による緑色の消失は、クロロフィル分子中のマグネシウムが水素原子2個と置き換わって フェオフィチン(pheophytin)になることにより生じます。
120個ぐらいの原子で出来ている分子中のたった1個が置き換わるだけで緑が黄褐色に変わるのですから不思議です。

クロロフィルの化学変化に大きく寄与するのは調理の経験上でも解る熱ですが、もう1つは調理中とその後の酸性度PHです。
実験によれば、中性の水で煮たときには、3分間で2割、5分間で3割、15分間で4割の緑色が失われます。
PH5(酸性)の溶液中で加熱すると、3分間で4割、5分間で5割、10分間で7割の緑色が失われます。
PH7.8(アルカリ性)の溶液中での加熱では、15分間煮てもほとんど緑色は失われません。

この実験から、葉物野菜の緑色を保つ調理は、加熱時間を極力短く、酸性溶液に触れさせないということになります。
しかし、加熱はもちろん、調味料を入れると調理中調理後の溶液は酸性になるのでどちらも避けられないのです。

緑色野菜の緑色を残す調理法は、
  • 加熱時間は極力短く
    (なるべく、青物は盛り付け時、できるだけ料理が冷めているときに添える)
  • 調味料は酸性になり難い塩を使う、醤油と味噌は酸性になるので極力使わない。
    (調味料は食べる直前、できれば料理が冷めている方がよい)
ということになります。

飲食店、特に高級飲食店は見た目を重視するので上記の方法を採っているでしょう。
しかし、見た目の綺麗さと摂取できる栄養は異なります。
調理時間が長くなれば、ビタミン類は失われていきますが、ビタミンが半分に減ったら2倍食べればよいだけで、 加熱時間の長さは2倍食べられるぐらい食べやすくしてくれるものです。
また、醤油や味噌は発酵食品なので多種多様なアミノ酸を含み、塩より栄養価は高いです。
調味料は使用量が少ないですから栄養と言っても多寡が知れていますがただの塩化ナトリウム(塩)よりはるかにましです。
個人的には薄口醤油の存在意義を疑っています(笑)

緑色野菜調理での塩の効用は、野菜を茹でるときにあります。
塩1%水溶液で茹でると、クロロフィル中のマグネシウムイオンとナトリウムイオンが置換し、 加水分解作用により緑色が多少良くなることがあります。
ただし、ホウレン草は塩を入れない方が鮮やかになるので野菜によりけりです。
また、塩はビタミンCの酸化を防ぎます。

緑色野菜の色と栄養価を保てる料理の鉄板は油炒めです。
油を使うと高温になるので調理時間が短く済みます。
軟らかめが好みのときは調理時間を長めにし、小麦粉を少量入れると、 野菜から出た水溶性のビタミン類も小麦粉に吸収されて野菜に絡み付くので摂取できます。
小麦粉を入れると野菜だけよりビタミン類が摂れる代わりに塩分も多くなってしまいますが、塩梅です。
炒め物は酸化した油を摂っているようなものですが、これも塩梅です。