なぜ、鷹は驚異的な視力を得られるのか?
鷹狩というのは、隼や大鷹などを飼い慣らし、野兎などの小動物を捕まえさせるものです。
鳥類は障害物の無い空で追いつ追われつしながら生きるためか、一般的に視力が良く、特に鷹などは人間の8倍以上の視力を持っています。
8倍というと、人間なら100メートルの距離まで近づかなければ認識できないのに鷹は800メートルの距離から認識できるという驚異的なものです。
なぜ、鷹は驚異的な視力を得られるのか?
第一に、眼のレンズの焦点距離が長い。
焦点距離が長いほど網膜上に大きな像を結ぶことが出来るのはカメラの望遠レンズと同じです。
焦点距離が長いため左右の眼が内部でくっ付き合っているほどスペースいっぱいに作られています。
そのため眼球を自在に動かす筋肉を入れるスペースが無くなり鷹は左右にしか眼球 を動かせません。
第二に、最も視力の良い“中心窩(注1)”には色彩感覚のある円錐細胞がぎっしり詰まってカラー化しています。
白黒画像よりカラー画像の方が物体の識別が容易な為でしょう。
昔の白黒映画が見難いと同じです。
ただ、円錐細胞に含まれる色彩に反応するタンパク質オプシンは感度が鈍いので、明るい場所でないと視力が極端に落ちます。
鳥類は中心窩以外の網膜上でも光粒子1個の受容でも反応する棒細胞より円錐細胞の比率が高く、フクロウなどを除いて鳥類が夜に弱いのはこのためです。
但し、「鳥目」といわれる夜間殆ど視力が無いのは鶏ぐらいなもので、殆どの鳥類は夜間でも見えています。
また、鷹の場合は中心窩の円錐細胞1個1個から出た神経繊維がそのまま脳に入り、1個1個の円錐細胞は独自の信号を脳に送っているので高度な情報処理をしています。
普通、眼には反応性を良くするために眼独自の処理系があり、脳に送る信号にフィルターを掛けています。
鳥類の網膜は人間と比べても厚く、神経細胞同士の横連絡が密なので中心窩以外の視細胞(棒細胞、円錐細胞)は反応性を増すために眼独自の処理系を通しているようです。
獲物や外敵は、突然、視野の端、少なくとも中心窩以外から入ってくる場合が多い訳ですから、動いている物かどうかぐらい独自に判別して、動く物なら直ぐにその像を中心窩に入れて詳細に識別しないと獲物に逃げられ、障害物の無い空では直ぐに襲われてしまいます。
第三に、鳥類の眼には“くし膜”といわれる血管がたくさん走っているひだ状の組織があり、このくし膜が血管の無い網膜に豊富に栄養素を与えています。
くし膜が多いのは鷹で、少ないのはフクロウです。
人間にはくし膜が無いですから、鳥の眼より栄養素の消費量が少ない、すなわち動きが悪いのでしょうか。
鷹類、特に大鷹などは外敵から逃げるより獲物を捕まえる為の眼ですから獲物に集中していても不都合は起きません。
しかし、ツバメ類は飛んでいる小さな虫を捕らえると同時に外敵にも注意を払わなければ生きていけないのでしょうか、 なんと! 中心窩が1つの眼に2個、左右の眼で計4個もあります。
左右1個ずつの中心窩は前方の一点に向けられ立体視(距離を測る)に、残りの2個はそれぞれ左方と右方用です。
立体視用と左右用が完全に同時に働くと思えませんが、姿勢を変えずに見られるのは敵から逃げるには良いでしょう。
さて、夜活動するフクロウの場合は鷹が視力優先で眼レンズの焦点距離を伸ばしたのとは逆にレンズの口径を大きくして出きるだけ多くの光を集めようとしました。
その為、眼球を動かす筋肉を入れるスペースが無くなり、頭を左右に180度も動かすことでカバーしています。