メガネ型拡大鏡は老眼鏡と違うのか?
(2017/08)テレビ通販でよく見かけるものに、メガネ型のルーペ(拡大鏡)があります。 某通販番組で「老眼鏡では無くて拡大鏡です」というように強調して いますが、 不勉強の私には老眼鏡とメガネ型のルーペの違いが解りません。 2020年9月に放映された某通販番組では「老眼鏡はピントを合わせ、ルーペは拡大する」と説明していましたが、笑ってしまいました。
ご存知の様に、光学レンズには凸レンズと凹レンズしかありません。メガネの場合、凸レンズは老眼用と遠視用、凹レンズは近視用です。
さて、手許の物を大きく見えるようにする物には、小学生からお馴染みの虫眼鏡(ルーペ)と言われるものがあります。
虫眼鏡は凸レンズです。
凸レンズは入ってきた光を1点に集めるので、上図A点からレンズに入射した光がレンズを出て目に入ると、 目にはA’点から出た光に見えます。
ということで、拡大されて見えます。
通常の物は凸レンズ1枚ですが、高級品は像の色にじみや歪みを少なく少なくする目的で凹レンズを組み合わせた複数のレンズで構成したものがあります。
変わった物では、ガリレオ式望遠鏡タイプがあります。見る対象物側が凸レンズ、眼側が凹レンズで構成されています。
ガリレオ式望遠鏡は、視野が狭く、倍率も高く出来ませんが、メガネの様にレンズ径を大きくし、 2、3倍といったルーペの倍率ぐらいでは十分実用になります。
眼鏡のレンズ部分が異様に厚く、レンズが2枚以上ならこのタイプの可能性があります。
メガネ型のガリレオ望遠鏡が自作できたら、近視の私は即効で作ります。星空を観るには便利です。市販品を見た記憶がありますが、高価でした。
自作できるものは、美術館や博物館などで、近づいて観られない展示物を観るために「アートスコープ」と言われるものでしょうか。 アートスコープは、通常の単眼鏡より近くまでピントを合わせられるようにした広角望遠鏡です。これも高価です。自作する場合は、ガリレオ式望遠鏡でも作れます。
で、問題の老眼鏡では無いメガネ型のルーペの話です。
倍率が1.6倍という製品を見かけたので、この倍率のメガネ型ルーペで、 眼から25cm離れた対象物が見える人が使うという条件で考察してみたいと思います。
(眼から25cm離れた対象物が見える人は正視か、近視+老眼の人です)
考察方法に迷いましたが 小さな物を大きく撮影する簡単な方法 を使ってみます。
メガネ型ルーペを掛けたときに見える最短距離をA
メガネ型ルーペを掛ける前に見える最短距離をB
メガネ型ルーペの焦点距離をFとすると
1/A = 1/B + 1/F
という関係式があります。
この関係式をメガネ型ルーペの焦点距離を求めるように変形すると
F = A/(1-A/B)
また、拡大倍率は、メガネ型ルーペを掛けたときに見える最短距離÷メガネ型ルーペを掛ける前に見える最短距離 A/B とします(近づけば大きく見えますから)
レンズが交換できないカメラやスマホに装着して遠くの対象物を大きく写すコンバージョンレンズ(Conversion Lens)方式なら 対象物に近づかなくて大きく見えますが、 メガネ型ルーペはどう見てもレンズ1枚です。目の前に凸レンズなのではっきり見える距離は短くなります。
(*望遠用 コンバージョンレンズは倍率が低いガリレオ式望遠鏡で、広角用はガリレオ式望遠鏡の眼側を対象物に向けたものです)
上写真は望遠用1.5倍コンバージョンレンズ
ルーペの仕様倍率は面積比が多いので、1.6倍の長さの比は1.6の平方根で、約1.26
約1.26倍大きく見えるようにするにはこの分だけ近づけばよいので、25cmから20cmまで対象物に近づきます。
メガネ型ルーペの焦点距離を求める式に代入すると
メガネ型ルーペの焦点距離は100cm
メガネの度数はメートルで表したレンズの焦点距離の逆数なので、度数で表すと、+1.0
度数1の老眼鏡と同じです。
ルーペの仕様倍率1.6が長さの比でしたら、レンズの焦点距離は約69cm、 度数では+1.45、眼鏡の度数は0.25刻みなので+1.5の老眼鏡になります。
老眼鏡は対象物を遠ざけないで見るためのものなので、眼から40cm離さないと見えない人が 25cm離して見えるようにするには
25/(1-25/40)=66.6666
度数は、+1.5
早速、百円ショップで1度の老眼鏡を買ってきましたが、私は近視なので老眼鏡を掛けなくても近くは見えました。
そこで、近視用メガネを掛けて矯正すると裸眼では見える近くの物が見え難くなるので老眼状態になります。 この状態で老眼鏡を掛けると、当然ですがよく見えるようになりましたが拡大されて見える気はしません。
(*見比べれば拡大されています、老眼用は裸眼より大きく見え、近視用は裸眼より小さく見えます)
通販サイトのレビューでは「老眼鏡と同じ」から「素晴らしい」まで評価が分かれているので、 この種の製品には私が知らない技術が入っているのか、それとも品のよい凸レンズだけなのかは判りません。評価が分かれるのは眼の状態が人により違うからだけだと思いますが。
私の場合は度数が3以上の老眼鏡では、拡大鏡という感じがしますが、 ピントが合う位置が眼に近すぎ、また、ピントの合う距離(奥行き)と視野が狭くなるので作業がし難いです。
「老眼鏡では無い」ルーペなら視野が広いかと言えばそんな便利な仕組みは存在しません、レンズを改良するにしても非球面レンズで凸レンズを作るぐらいしか無く、非球面レンズの老眼鏡は存在します。