身近な自然と科学

私見 買ってはいけない天体望遠鏡とは

買ってはいけない望遠鏡とは、期待はずれの性能しかない望遠鏡です。
ですから、当たり前ですが、「こんなものだろう」と思って買う分にはどんなに粗雑な造りの天体望遠鏡でもこれには該当しません。
といっては身も蓋もありませんね。

一般的には、
  • 高倍率を謳っているもの
  • 倍率を高くするときに使う「バローレンズ」が付属しているもの
  • メーカー希望価格より非常に安く売られているもの
  • 小型軽量を謳っているもの
などが、購入後に後悔する確率の高い望遠鏡と言われています。

高い倍率を謳うのは、倍率が高ければよく見えると思っている人を惹きつけるためのものです。
倍率はレンズを通さないで見た大きさと比較して何倍大き く見えるかを表しています。
たとえば、100倍の望遠鏡はレンズを通さないで距離1mで見た物の大きさと、距離100mから望遠鏡で見た大きさとが同じです。
と説明すると、倍率が高いほど遠くからでも同じ大きさに見えるから良いと思われるでしょうが、望遠鏡の原理を考えると限界が見えてきます。

望遠鏡の適性倍率は

望遠鏡は対物レンズでつくった像を接眼レンズで拡大して見ています。
ですから、対物レンズでつくった像が悪ければ幾ら拡大してもぼやけるだけでより細かい部分まで見えず、像は暗くなります。
暗くなる理由は、像を拡大するということは、像をつくっている光を広げてその一部を眼に取り入れているのと同じだからです。

適正な最高倍率は、昔から対物レンズ(反射望遠鏡なら主鏡)の有効口径をmmで表した2倍と言われています。
たとえば、有効口径60mmの望遠鏡なら60×2で120倍が適正な最高倍率です。
ただし、見やすい最高倍率は有効口径をmmで表した数と同じです。60mmなら60倍です。
最低倍率を問題にすることはあまりありませんが、対物レンズ(主鏡)をcmで表した2倍になります。
有効口径60mmの対物レンズを持つ望遠鏡では6×2で12倍となります。
ただし、設計を超える低倍率にした場合には視野が欠損することがあります。
また、短い焦点距離の対物レンズ(主鏡)を持つ望遠鏡では容易に低倍率になりますが、短焦点では球面収差や色収差(レンズの場合)が強くなります。

バローレンズが付属している場合です
バローレンズは対物レンズ或いは主鏡がつくる焦点より前に置いて焦点距離を伸ばす凹レンズです。
高い倍率を謳っている望遠鏡には必ず付属しています。
バローレンズそのものは良く出来た物なら積極的に利用してかまいません。
対物レンズ或いは主鏡の球面収差を緩和したいとき、 見やすい焦点距離の長い接眼レンズで高倍率を出したいときには利用した方がいいです。

バローレンズ付き望遠鏡

問題なのは、バローレンズの質です。
バローレンズの性質は凹レンズですが、色々な収差を緩和するために、凹レンズの収差と逆の収差を持つ凸レンズを組み合わせています。
レンズの枚数が増えるとレンズ面で光が反射して光量が減ったり、反射した光が入り込んでコントラストを悪くするため、反射を防ぐコーティングをします。
このため、普及品でも数千円以上します。
こんな高価なバローレンズが安価な望遠鏡に付属できる訳がありませんから、付属しているバローレンズは粗悪品ということになります。
小さな凹レンズを筒の中に1枚入れ ただけのバローレンズが付属していることは珍しくありません。
粗悪なバローレンズを使うと、大きくは見えますが、像が歪んだり、色滲みが出たり、ぼやけたりと良い事はありません。
ただし、バローレンズが付属しているからと言って極端に悪い望遠鏡とは限りません。
バローレンズを使わなければ相応に見えるものがあります。


割引率の高い望遠鏡は、割引率を高く見せるために希望小売価格そのものが非常に高く設定されている可能性があります。
箱に値段が印刷されているような物はギフト用です。
⇒スカイドリーム GX4000
望遠鏡は単純な構造の機械なので、良いものは生産終了から何十年経っても極端に値段が下がりません。

小型軽量を謳っている天体望遠鏡には、小型軽量にするために質を落としている可能性があります。
小型にするためには対物レンズ或いは主鏡の焦点距離を短くしますが、有効口径を小さくすると見栄えが悪いので口径は変えません。
すると、口径比F(焦点距離÷有効口径)は小さくなります。
口径比Fを小さくするには相応の設計と特殊なレンズが必要となります。
一眼レフカメラの交換レンズをみると判りますが、口径比Fをちょっと小さくしただけで価格は数倍以上になっています。
望遠鏡も同じで、 口径比Fを小さくするためには、フローライト(蛍石)レンズや、超低分散光学ガラス(ED)を使ったレンズを使う必要があって高価になります。

軽量化が望遠鏡を支える架台や三脚に及ぶと本当に使い物にならない望遠鏡になります。
極端な事を言えば、軽い架台や三脚では風で倒れてしまいます。
また、 可動部分が弱い構造の架台は、風で鏡筒が揺れ、視野の中で光の点が動き回ってしまいます。
無風でも微動ハンドルを回すだけで視野が揺れたり、接眼レンズの交換時には望遠鏡の向きが変わってしまうこともあります。
店頭で望遠鏡を選ぶときには、鏡筒の向きを固定してから下写真のように鏡筒の先を軽く叩いてみます。筒先が簡単に動くようなら弱い風でも振動する可能性が高いです。

天体望遠鏡の架台強度を確認する方法の写真

買ってはいけない望遠鏡の類の写真
下写真左は、口径80mm焦点距離700mmの屈折経緯台です。
鏡筒に「million」と書いてありますが、メーカーは不明です。
三脚はスチールパイプ、経緯台も金属製で水平上下方向共に微動付です。
架台三脚は重く、しっかりした造りで視野の揺れは少ないのですが、口径比Fが9弱と小さい所為か色収差が目立ちます。
鏡筒部分はプラスチックが多用され、また、一眼レフカメラで天体写真を撮るときに必要な「Tリング」が付けられない玩具っぽいつくりです。
一眼レフで月の写真ぐらい撮りたいと思われる方は、鏡筒も金属製で、Tリングが付くものを選んでください。

天体望遠鏡millionとビクセンカスタムの写真
上写真右は、口径80mm焦点距離910mm屈折経緯台、ビクセンのカスタムです。
部分微動ですが、鏡筒、経緯台、三脚の殆どが金属製で堅牢です。
中古から入用門を選ぶなら、ビクセンのカスタムがお勧めです。
現行機種ならビクセンの「ポルタII A80Mf」クラスがお勧めです。

それから、天体を望遠鏡に向けるために必要なファインダーですが、主望遠鏡に近すぎると使いづらいですから主望遠鏡から離れた位置に付けられているものが良いです。
特にニュートン式反射望遠鏡で は、経験上、頭の横幅の3分の2以上離れていないと見難い感じです。
もっとも、小口径望遠鏡に付いているファインダーは対物レンズの有効口径が小さいので夜空が明るい街中ではあまり役には立ちません。
後からファインダーだけ口径の大きなものに交換できる機種もありますが、面倒です。

ビクセンFL-90S天体望遠鏡の写真
上写真左は、フローライトを対物レンズに使い、名機と言われたビクセンFL-90S+ポラリス赤道儀です。
右の写真は買ってはいけない部類に入る赤道儀です。ポラリス赤道儀と比べると外見からも華奢すぎて望遠鏡を支えきれないことが解ると思います。